2/7 甘く沈む寒波
こんにちは、まっちゃです。1日1話企画、7日目。やっと土曜日。一週間って、毎週長さが違う気がする。
朝、目を覚ましたとき、部屋は思ったより静かだった。
窓の外から聞こえるはずの車の音も、人の声も、どこか遠い。
雪宮悠は、布団の中で一度だけ瞬きをして、そのまま天井を見つめた。
起き上がる理由は、特にない。
今日は土曜日で、学校はない。予定もない。
カーテンの隙間から、光が差し込んでいるのが分かる。
朝日だ。きっと、外はもう寒くない。
それでも悠は、手を伸ばさなかった。
布団の中は、均一な温度だった。
暖かい、というより、変化がない。
その感覚に身を預けたまま、呼吸だけを繰り返す。
起き上がって、キッチンへ向かう。
湯を沸かし、マグカップを手に取る。
何を選ぶつもりだったのか思い出せないまま、いつものココアだけが出来上がっていた。
湯気が立ちのぼる。
甘い香りが、部屋に広がる。
窓際に立つが、カーテンは半分だけ閉めたままだ。
日差しが強すぎると、目が疲れる。
そういうことにしておく。
外を見ると、道路の端に雪が残っている。
踏み固められて、白というより、灰色に近い。
日向の雪はほとんど消えているのに、影になった部分だけが、まだ形を保っていた。
マグカップを両手で包む。
指先がじんわりと温まるのを感じながら、悠は時計を見る。
特に意味はない。
ただ、時間が進んでいることを確認したかっただけだ。
昼前、何をするでもなく本を開く。
文字を追っているはずなのに、内容は頭に残らない。
何度か同じ行を読み返して、そっと閉じた。
静かだ。
安心できるくらい、静か。
この静けさを、誰かが許してくれている気がする。
理由は分からないが、そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。
昼を過ぎても、外には出なかった。
雪解け水で道が濡れているだろう、と考えたからだ。
滑るのは面倒だし、靴も汚れる。
それだけの理由のはずなのに、妙に納得できてしまう。
午後、部屋の中で場所を変える。
日差しの当たらない位置に座り、背中を壁に預ける。
影の中は、落ち着く。
寒いわけじゃない。
ただ、ここなら余計なことを考えずに済む。
夕方、空が少し暗くなった頃、ふと手が止まる。
この一日を、誰かに説明できるだろうか、と考えた。
何もしていない。
でも、何も間違っていない気もする。
胸の奥に、かすかな引っかかりが生まれる。
この安心は、本当に自分のものだろうか。
自分で選んだ結果だと言い切れるだろうか。
その考えに、悠は小さく首を振る。
――まただ。
こういうふうに、何でも悪く考える。
せっかく穏やかな休日なのに、自分で台無しにする癖。
昔から、そうだった。
日向に出れば、きっと寒くはない。
そんなことは、分かっている。
それでも悠は、
影の残る場所から、動かなかった。
雪はもう、降っていない。
けれど、溶けきらない冷えだけが、静かにそこにあった。




