2/5 ファースト・■■
こんにちは、まっちゃです。1日1話企画、早くも5日目。雪見だいふくが食べたい季節。
朝の空気は、昨日までの大雪が嘘みたいに澄んでいた。
雪宮悠はマフラーを少しだけ引き上げ、校門をくぐる。足元に残る雪は踏み固められ、白というより、もう透明に近い。
「おはよう、悠くん」
声は、振り向くより先に届いた。
霜原こおりは、いつも通りの距離に立っている。近すぎず、遠すぎず。昨日まで休校だったことを思えば、久しぶりのはずなのに、間が空いた感じはしなかった。
「雪、大丈夫だった?」
そう言われて、悠は一瞬、言葉を探す。
本当は、朝起きるのが少し億劫だった。
外に出るのも、正直なところ気が重かった。
でも、そのどれもを口に出す前に、こおりは続ける。
「道、滑りやすいから気をつけてね。無理しなくていいよ」
その一言で、胸の奥に溜まりかけていた何かが、静かに引いていく。
言わなくてよかった、と思う。
わざわざ言うほどのことじゃない、とも。
教室に入ると、暖房の効いた空気が身体を包んだ。窓の外、校庭の端に一本だけ立つ電柱に、黒い影が止まっているのが見えた。
一羽の鴉。雪の白さの中で、世界に穴が開いたようにも見える。次の瞬間には羽音もなく飛び去っていた。
昼休み、悠は席で本を読んでいた。
こおりは特別話しかけてくるわけでもなく、ただ、視界の端にいる。それだけで、教室のざわめきが少し遠くなる。
放課後、昇降口で靴を履き替えるとき、こおりがぽつりと言った。
「今日は、ちゃんと来てくれてよかった」
その言い方が、妙に引っかかった。
来るのが当然のはずなのに、“ちゃんと”という言葉が、まるで別の選択肢があったみたいで。
――考えすぎだ。
悠は、そう思う自分に苦笑する。
期待したみたいで、少し恥ずかしい。
心配されているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
帰り道、雪解け水が靴底を濡らす。
冷たいはずなのに、胸の奥は静かだった。落ち着いている、と言えば聞こえはいい。
ただ、何かを言いそびれたような感覚だけが、薄く残っている。
凍える霜に、埋もれた――ファースト・フェイク。




