表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘く誘う冬の悪魔  作者: まっちゃ
第一週 碧い日陰の溶けぬ雪
5/5

2/5 ファースト・■■

こんにちは、まっちゃです。1日1話企画、早くも5日目。雪見だいふくが食べたい季節。

朝の空気は、昨日までの大雪が嘘みたいに澄んでいた。

雪宮悠はマフラーを少しだけ引き上げ、校門をくぐる。足元に残る雪は踏み固められ、白というより、もう透明に近い。


「おはよう、悠くん」


声は、振り向くより先に届いた。

霜原こおりは、いつも通りの距離に立っている。近すぎず、遠すぎず。昨日まで休校だったことを思えば、久しぶりのはずなのに、間が空いた感じはしなかった。


「雪、大丈夫だった?」

そう言われて、悠は一瞬、言葉を探す。


本当は、朝起きるのが少し億劫だった。

外に出るのも、正直なところ気が重かった。

でも、そのどれもを口に出す前に、こおりは続ける。


「道、滑りやすいから気をつけてね。無理しなくていいよ」


その一言で、胸の奥に溜まりかけていた何かが、静かに引いていく。 

言わなくてよかった、と思う。

わざわざ言うほどのことじゃない、とも。


教室に入ると、暖房の効いた空気が身体を包んだ。窓の外、校庭の端に一本だけ立つ電柱に、黒い影が止まっているのが見えた。

一羽の鴉。雪の白さの中で、世界に穴が開いたようにも見える。次の瞬間には羽音もなく飛び去っていた。


昼休み、悠は席で本を読んでいた。

こおりは特別話しかけてくるわけでもなく、ただ、視界の端にいる。それだけで、教室のざわめきが少し遠くなる。


放課後、昇降口で靴を履き替えるとき、こおりがぽつりと言った。


「今日は、ちゃんと来てくれてよかった」


その言い方が、妙に引っかかった。

来るのが当然のはずなのに、“ちゃんと”という言葉が、まるで別の選択肢があったみたいで。


――考えすぎだ。


悠は、そう思う自分に苦笑する。

期待したみたいで、少し恥ずかしい。

心配されているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。


帰り道、雪解け水が靴底を濡らす。

冷たいはずなのに、胸の奥は静かだった。落ち着いている、と言えば聞こえはいい。


ただ、何かを言いそびれたような感覚だけが、薄く残っている。


凍える霜に、埋もれた――ファースト・フェイク。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ