2/20 燈す炎は既に灰
雪宮悠は、教室のドアを押して入ると、空気の冷たさに小さく息をついた。
窓の外には昼の光が満ちているのに、教室の中だけは氷が張ったように静かだ。机と椅子、黒板、壁――すべてが寒々しく、距離を置かれた存在のように感じられた。
そこに立っていたのは、こおり。
口角をわずかに上げ、悠を見つめる視線には甘やかな熱が含まれていた。声は柔らかく、しかし何かを浸透させるようにゆっくりと響く。
「悠くん、今日も寒そうだね」
その声に、胸の奥が少しだけざわつく。冷たい教室の空気を掻き分けるように、こおりの存在が悠を包む。日常の静けさの上に、甘い熱がじわりと染み込む。
視界の端に、派手でなくとも視線を集める紅が見えた。
その笑顔は無邪気で、声は軽やかに空間を跳ねる。悠の視界にちらりと映るだけで、胸の奥の重みが少しだけ和らぐ。灯の存在は、凍りついた要塞に小さな隙間を作るようだった。
こおりは悠の隣に歩み寄り、机の縁に手を置く。距離は近いのに、不思議と圧迫感はない。
「ねぇ、今日は一緒にここで……」
言葉の続きを想像するだけで、悠の心は甘く浸されるように熱くなる。教室の冷たさと、こおりの熱――その対比が、悠の内面をひとつの液体のように撹拌する。
一方で灯は、窓際で手を振り、笑い声を少しだけ教室に残す。
「見て見て、雪の影が面白い形だよ!」
その無邪気さは、冷たく固まった教室を砕こうとする小さな炎のようだった。悠はその光景をぼんやりと見つめながら、心の奥で微かに揺れる自分を感じる。
教室を出る頃、胸の中に小さな灰のような感覚が残る。
温かさでも冷たさでもなく、確かにそこにある何か――それは、悠の中に生まれた、新しい自分の片鱗だった。




