2/17 廻る命の甘味は―白昼に浮かぶ光―
在る。
空は明るい。
夜はすでに沈み、光は均され、世界は輪郭を失っている。
それでも、在るものは在る。
白が羽となって、光に溶ける。
羽ばたく必要はない。
落ちる影がある以上、そこに在ることは確かだった。
下を見下ろす。人間がいる。
止まっている。揃っている。
理由は分からない。
だが、止まる時間なのだと知っている。
赤は、見えない。
色そのものが存在しない。
それでも、人間は止まる。
だから、止まるという行為だけが正しい。
白線がある。
線というより、区切りだ。
越えてはいけない場所。
越えるときが来る場所。
影が落ちる。
自分のものだと、分かる。
黒は闇より深い。それは、比較の問題ではない。
闇が意味を持つ前から、この黒は在った。
嘴に、重さがある。
何かを咥えている。
落とした記憶はない。
拾った記憶もない。
だから、最初からそうだった。
緑が、淡く光る。
それは色ではない。
色という概念が、そこに追いついていない。
自分のものだ。
そう、思っている。
思っている、という言葉は正確ではない。
疑ったことがない。
疑う理由が存在しない。
白い羽が一瞬、光を弾く。
その反射が、人間の視界をかすめる。
だが、誰も気づかない。
気づかないことが、正しい。
音が鳴る。白い音。
それが合図だと、知っている。
人間が動く。揃って、前へ。
止まっていたものが、流れ出す。
世界が、再び循環を始める。
黄金が、光を受ける。
眩い。見つめるための色ではない。
紫紺が、沈む。底がない。
覗き込むという行為が、意味を失う。
それでも、見ている。
見下ろしている存在がいる。横断歩道を渡る、一人。
振り返らない。振り返らないことを、選んでいない。
選択という概念が、そこにはない。
それが、ひどく安定している。
――正しい。
そう判断した瞬間、判断という行為そのものが、意味を失う。
時間が進む。
進んでいるというより、同じ位置で、意味だけが回転している。
夕方。
夜。光は残っている。
再び、下を見る。
同じ場所。
同じ人間。
止まった記憶がある。
だが、信号の色は存在しない。
それでも、役目は果たされる。
影を落とす。
今度は、意識的に。
誰も気づかない。
それでいい。
自分は、鳴かない。
啼く必要がない。
在ることと、知らせることは、別だ。
家に入る人間がいる。
光が点く。
影が、遅れて動く。
遅れたのではない。
合わせなかっただけだ。
天井を見る人間。
目を閉じる人間。
その内側で、薄いものが軋む。
割れない。
まだ。
見ている。
見ている、という行為だけが、確かだ。
嘴の中。
緑が、わずかに脈打つ。
それを、自分のものだと思っている。
そう思い込んでいる。
だが――
それを「見た」ことは、一度もない。
次の瞬間、白が広がる。
白昼だ。
夜ではない。闇でもない。
それでも、星は沈んだままだ。
――今日もまた、割れることはなかった。
そうして、白昼に浮かぶ光だけが、確かに、そこに在り続けていた。




