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甘く誘う冬の悪魔  作者: まっちゃ
第二週 濁る吐息に溶ける華
12/32

2/12 溶け落つ華

こんにちは、まっちゃです。1日1話企画、12日目。もうすぐ半分。今年の2月、カレンダーにもよるとは思いますが、綺麗に長方形を創ってるんですよね。次、同じ光景を見るのは何年後なのだろうか。

朝、目が覚めたとき、部屋の空気は昨日よりも湿っていた。

雪が解けきったせいか、窓の外は白というより、鈍い色をしている。


雪宮悠は、しばらく布団から出られずにいた。

寒いわけではない。ただ、起き上がる理由が見当たらなかった。

昨日が祝日だったことを、もう思い出せない。

代わりに残っているのは、静けさと、何も起きなかったという事実だけだ。


起き上がり、洗面所で顔を洗う。

鏡に映った自分の顔は、特別変わっていない。

それが、少しだけ安心で、同時に不安だった。


制服に袖を通す。

指先が、いつもより冷たい。

けれど、それを不快には感じなかった。


家を出ると、空気は思ったよりも柔らかい。

冬の鋭さが、ほんの少しだけ丸くなっている。

学校までの道。

雪はもうほとんど残っていない。

代わりに、濡れた地面が靴底にまとわりつく。


歩いているうちに、誰かの気配を感じた。

振り返る前から、それが誰かは分かっていた気がする。


「おはよう」


声は、近かった。

距離を詰める音がしないのに、最初からそこにいたみたいに。

悠は、小さく頷く。

言葉を探す前に、歩き出していた。

並んで歩く。

肩が触れるほど近くはない。

けれど、間に冷たい空気は挟まっていなかった。


会話は少なかった。

天気のこと。

雪が減ったこと。

どうでもいい話ばかり。


それなのに、胸の奥がじんわりと温まっていくのを、悠は感じていた。


教室に入ると、暖房が効いている。

昨日までよりも、人の気配が濃い。

息が混ざり合い、空気が少し曇っている。


席に着く。

隣や、少し前の席から、笑い声が聞こえる。

その音が、今日はやけに遠い。

昼休み、誰かが近くに立った。

何気ない仕草で、机に肘をつく。


「ちゃんと食べてる?」


問いかけは、責めるでもなく、探るでもない。

ただ、確かめるみたいに。


悠は曖昧に頷く。

それで十分だと、相手は判断したらしい。

離れていく背中から、ほのかに残る温度。

それが、なぜか心地よかった。


放課後、校舎を出るころには、空が少し赤くなっていた。

冷え込むはずの時間帯なのに、吐く息は白くならない。

歩いている途中、ふと立ち止まる。

胸の奥が、ゆっくりと緩んでいくのを感じた。


――この感じを、知っている。


けれど、それがいつからのものなのか、思い出せない。


帰宅後、無意識にココアを淹れる。

今日は、湯気を待った。

両手でカップを包むと、確かな熱が伝わってくる。

甘い。

昨日よりも、ずっと。

苦味は、奥に沈んでいる。

探さなければ、気づかない程度に。


窓の外を見ると、街灯の下に、濡れた花壇があった。

冬のはずなのに、そこには小さな蕾が顔を出している。

雪に守られていたはずのものが、

気づかないうちに、外気に晒されていた。

暖かさに触れたせいで。

あるいは、触れてしまったせいで。


悠は、その蕾から目を逸らす。

壊れてしまう気がして。

けれど、もう遅い。


カップの底に残ったココアは、少し冷めていた。


溶け落ちた華は、

まだ、形を保っているように見える。

ただ――

元の色には、もう戻らない。

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