2/11 孤独、故の命運
こんにちは、まっちゃです。1日1話、11日目。1がいっぱい。今日は建国記念日。皆さんも、自分の国を創りましょう(?)
祝日だというのに、目覚ましはいつも通り鳴った。
雪宮悠は止めるでもなく、しばらく天井を見つめていた。外は静かで、車の音もしない。街全体が、休むことを許されているような朝だった。
建国記念日。
何を建てたのか、正直よく知らない。ただ、学校が休みになる日、という認識だけが残っている。
起き上がり、カーテンを少しだけ開ける。
昨日よりも雪は減っていた。屋根から落ちた雪が、無残な形で地面に溶けている。白だったものが、灰色に変わっていく過程を、悠はぼんやりと眺めた。
スマートフォンには通知がない。
灯からも、こおりからも。
それを確認して、なぜか胸が少し軽くなる。
同時に、何かを失ったような気もして、居心地の悪さが残った。
朝食は取らず、ココアだけを淹れた。
湯気が立ち上るのを待たずに口をつける。甘さはあるのに、舌に残るのは苦味だった。砂糖の量は、いつもと同じはずなのに。
テレビをつけると、祝日の特集が流れている。
平和、歴史、未来。
どれも遠い言葉だった。
音量を下げ、ソファに身を沈める。
何もしなくていい一日。
誰にも会わなくていい一日。
それは、悠にとって救いだったはずだ。
なのに、時間が経つにつれて、部屋の静けさが重くなる。
時計の針が進む音だけが、やけに大きい。
昼前、ふと、窓の外に影が落ちた。
視線を向けると、電線に鴉が止まっている。黒い羽が、溶けかけの雪と対照的だった。
目が合った、気がした。
一瞬の後、鴉は羽音も立てずに飛び去る。
残ったのは、黄金の残像だけだった。
昼食も取らず、ベッドに横になる。
スマートフォンを手に取るが、開くアプリは決まっている。
メッセージアプリ。
けれど、送る相手がいない。
灯に送れば、返事は来るだろう。
きっと、何気ない言葉で、いつもの距離感で。
こおりに送れば、もっと早い。
心配する文面が浮かぶ。
無理しなくていい、ゆっくりしてね、そんな言葉。
どちらも、容易に想像できた。
だから、悠は何も送らなかった。
送ることができなかった。
午後になっても、外には出なかった。
祝日だから、街は人で溢れているはずなのに、窓越しに見る景色は静まり返っている。まるで、自分だけが世界から切り離されたみたいだった。
夕方、再びココアを淹れる。
気づけば、いつもの癖で。
カップを持つ手が、少しだけ震えた。
暖かいはずの飲み物が、なぜか冷たく感じる。
――このままで、いい。
ふと、そんな考えが浮かぶ。
誰にも踏み込まれず、誰も選ばず、ただ安全な場所にいる。
それは平和だ。
少なくとも、壊れることはない。
でも同時に、
何も始まらない。
夜。
カレンダーを見る。赤く印刷された「11」の数字。
建国記念日。
何かが始まった日。
けれど悠は、その日を、何も建てずに終えようとしている。
人との距離に壁を引き、感情に国境線を引き、自分だけの領域を守る。
誰も侵略しない代わりに、誰も救えない国。
布団に潜り込み、目を閉じる。
静かで、安全で、完璧な孤独。
それを選んだ瞬間、もう別の未来は、存在しなくなった。
孤独、故の命運。
それは祝われることもなく、ただ、確定した。




