表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘く誘う冬の悪魔  作者: まっちゃ
第二週 濁る吐息に溶ける華
11/32

2/11 孤独、故の命運

こんにちは、まっちゃです。1日1話、11日目。1がいっぱい。今日は建国記念日。皆さんも、自分の国を創りましょう(?)

祝日だというのに、目覚ましはいつも通り鳴った。

雪宮悠は止めるでもなく、しばらく天井を見つめていた。外は静かで、車の音もしない。街全体が、休むことを許されているような朝だった。

建国記念日。

何を建てたのか、正直よく知らない。ただ、学校が休みになる日、という認識だけが残っている。

起き上がり、カーテンを少しだけ開ける。

昨日よりも雪は減っていた。屋根から落ちた雪が、無残な形で地面に溶けている。白だったものが、灰色に変わっていく過程を、悠はぼんやりと眺めた。


スマートフォンには通知がない。

灯からも、こおりからも。

それを確認して、なぜか胸が少し軽くなる。

同時に、何かを失ったような気もして、居心地の悪さが残った。


朝食は取らず、ココアだけを淹れた。

湯気が立ち上るのを待たずに口をつける。甘さはあるのに、舌に残るのは苦味だった。砂糖の量は、いつもと同じはずなのに。

テレビをつけると、祝日の特集が流れている。

平和、歴史、未来。

どれも遠い言葉だった。


音量を下げ、ソファに身を沈める。

何もしなくていい一日。

誰にも会わなくていい一日。


それは、悠にとって救いだったはずだ。


なのに、時間が経つにつれて、部屋の静けさが重くなる。

時計の針が進む音だけが、やけに大きい。

昼前、ふと、窓の外に影が落ちた。

視線を向けると、電線に鴉が止まっている。黒い羽が、溶けかけの雪と対照的だった。


目が合った、気がした。


一瞬の後、鴉は羽音も立てずに飛び去る。

残ったのは、黄金の残像だけだった。


昼食も取らず、ベッドに横になる。

スマートフォンを手に取るが、開くアプリは決まっている。

メッセージアプリ。

けれど、送る相手がいない。


灯に送れば、返事は来るだろう。

きっと、何気ない言葉で、いつもの距離感で。


こおりに送れば、もっと早い。

心配する文面が浮かぶ。

無理しなくていい、ゆっくりしてね、そんな言葉。


どちらも、容易に想像できた。

だから、悠は何も送らなかった。

送ることができなかった。


午後になっても、外には出なかった。

祝日だから、街は人で溢れているはずなのに、窓越しに見る景色は静まり返っている。まるで、自分だけが世界から切り離されたみたいだった。


夕方、再びココアを淹れる。

気づけば、いつもの癖で。

カップを持つ手が、少しだけ震えた。

暖かいはずの飲み物が、なぜか冷たく感じる。


――このままで、いい。


ふと、そんな考えが浮かぶ。

誰にも踏み込まれず、誰も選ばず、ただ安全な場所にいる。

それは平和だ。

少なくとも、壊れることはない。

でも同時に、

何も始まらない。


夜。

カレンダーを見る。赤く印刷された「11」の数字。


建国記念日。

何かが始まった日。

けれど悠は、その日を、何も建てずに終えようとしている。

人との距離に壁を引き、感情に国境線を引き、自分だけの領域を守る。


誰も侵略しない代わりに、誰も救えない国。


布団に潜り込み、目を閉じる。

静かで、安全で、完璧な孤独。


それを選んだ瞬間、もう別の未来は、存在しなくなった。


孤独、故の命運。


それは祝われることもなく、ただ、確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ