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魔法のない魔法使い ― Parallel Diner ―  作者: 伏木 亜耶


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6/14

肝臓デトックス作戦~解毒酵素を活性化せよ~

「リナさん、大統領の腸内環境は順調に回復していますが・・・一つ、気になることが」

二週間後、ドクター・ジョンソンが実験室を訪れた。


リナは大根おろしを作りながら振り返った。

「何?」

「肝機能の数値が、まだ正常値に戻りません。ALT、AST、γ-GTPすべて高値のままです」

「見せて」

ジョンソンが差し出したタブレットを見ると、確かに肝臓の数値が異常だった。

「ALT 120 U/L、AST 98 U/L、γ-GTP 156 U/L・・・」リナは眉をひそめた。「予想通りね」

「予想通り?」

「ええ。大統領は500年分の合成栄養素、特に脂溶性ビタミンが肝臓に蓄積してる。ビタミンA、D、E、K・・・これらは水に溶けないから、体外に排出されにくいの」


リナは大根おろしを絞った。

「脂溶性ビタミンは肝臓に貯蔵される。適量なら問題ないけど、過剰になると肝臓に負担がかかる。特にビタミンA(レチノール、C₂₀H₃₀O)の過剰摂取は肝障害を引き起こすわ」

「では・・・どうすれば?」

「肝臓のデトックスよ。解毒酵素を活性化させて、蓄積した脂溶性ビタミンを排出する」

リナは作業台に並べた食材を指差した。

大根、生姜、レモン、緑茶、そして大量の野菜。

「これが今日の武器。肝臓を浄化する最強のデトックスメニューよ!」


リナは大根を手に取った。

「まず、これ。大根」

「大根・・・?」ジョンソンが首を傾げた。

「大根には、ジアスターゼという酵素が豊富に含まれてるの。ジアスターゼはアミラーゼの一種で、でんぷん(C₆H₁₀O₅)ₙを分解する」


リナは大根をおろし金でおろし始めた。

シャリシャリという小気味良い音。

「大根おろしにすることで、細胞が破壊されて酵素が活性化する。これが消化を助けるのよ」

「消化を助ける・・・それが肝臓と関係あるのですか?」

「大ありよ! 消化が良くなれば、肝臓の負担が減る。でも、それだけじゃない」


リナはおろした大根を軽く絞った。

「大根にはイソチオシアネート(R-N=C=S)という辛味成分も含まれてる。これが肝臓の解毒酵素、特にグルタチオンS-トランスフェラーゼを活性化するの」

「ぐるたちおん・・・?」

「グルタチオン(C₁₀H₁₇N₃O₆S)は、肝臓で最も重要な抗酸化物質。解毒酵素と結合して、有害物質を無毒化する。大根のイソチオシアネートは、このグルタチオンの働きを強化するのよ」


リナは絞った大根おろしを小鉢に盛った。

「それに、大根にはビタミンC(C₆H₈O₆)も豊富。ビタミンCは水溶性だから、脂溶性ビタミンのバランスを取るのに重要。それに抗酸化作用もある」


次に、リナは生姜を取り出した。

「これが、二つ目の武器。生姜」


リナは生姜をすりおろした。

鼻をつく、爽やかで刺激的な香り。

「生姜の辛味成分は、ジンゲロール(C₁₇H₂₆O₄)とショウガオール(C₁₇H₂₆O₄)。加熱するとジンゲロールがショウガオールに変化するの」

「どう違うのですか?」

「ジンゲロールは抗炎症作用が強い。ショウガオールは血行促進作用が強い。今回は生で使うから、ジンゲロールの効果を狙うわ」

リナは生姜おろしを大根おろしに混ぜた。

「ジンゲロールは、肝臓のシトクロムP450という酵素系を活性化する。これが何をするかというと・・・」


リナはホワイトボードに図を描いた。

「肝臓の解毒反応には、第一相反応と第二相反応がある。第一相反応では、シトクロムP450が脂溶性の有害物質を酸化・還元・加水分解して、水溶性に近づける」

「水溶性に?」

「そう。脂溶性のままだと体外に排出できないから、水溶性に変換する必要がある。第二相反応では、グルクロン酸(C₆H₁₀O₇)や硫酸基、グルタチオンなどと抱合させて、完全に水溶性にする」


リナは矢印を描いた。

「この二段階の解毒反応で、脂溶性ビタミンも徐々に代謝されて、尿や便から排出される。生姜のジンゲロールは、この第一相反応を促進するの」

「なるほど・・・」

「それに、生姜は血行を促進する。血流が良くなれば、肝臓に酸素と栄養が届きやすくなる。肝細胞の代謝が活性化されて、デトックスが加速するのよ」


三つ目は、レモン。

リナはレモンを半分に切り、ぎゅっと絞った。

「レモンの主成分は、クエン酸(C₆H₈O₇)。これが重要なのよ」

「クエン酸・・・」

「そう。クエン酸回路で有名だけど、それだけじゃない。クエン酸には、キレート作用があるの」

「きれーと?」

「金属イオンを包み込んで、水溶性にする作用。重金属や過剰なミネラルを体外に排出しやすくする。大統領の肝臓には、合成栄養素由来の過剰なミネラルも蓄積してるでしょ? それを排出するのに役立つわ」


リナはレモン汁を大根おろしと生姜に加えた。

「それに、レモンのビタミンCは、グルタチオンの再生を助ける。グルタチオンは解毒反応で酸化されるんだけど、ビタミンCがあると還元されて、また使えるようになるの」

「つまり、解毒酵素のリサイクル?」

「その通り! 効率的でしょ?」


最後に、リナは緑茶の葉を取り出した。

「そして、四つ目の武器。緑茶」

リナは急須に茶葉を入れ、70℃のお湯を注いだ。

「緑茶の主成分は、カテキン(C₁₅H₁₄O₆)。ポリフェノールの一種で、強力な抗酸化作用を持つの」


ゆっくりと茶が抽出されていく。

美しい黄緑色。

「カテキンには、エピガロカテキンガレート(EGCG、C₂₂H₁₈O₁₁)という最強の抗酸化物質が含まれてる。これが肝臓を活性酸素から守るのよ」

「活性酸素?」

「解毒反応の過程で、活性酸素(O₂⁻、H₂O₂、・OHなど)が発生する。これが肝細胞を傷つけることがあるんだけど、カテキンがそれを中和してくれる」

リナは緑茶を湯呑に注いだ。

「それに、カテキンは脂質代謝を促進する。肝臓に蓄積した脂質を燃焼させて、脂肪肝を改善する効果もあるわ」


リナは完成したデトックスドリンクを見た。

大根おろし、生姜おろし、レモン汁を混ぜたもの。

そして、別に緑茶。

「これが基本のデトックスセット。でも、これだけじゃ不十分ね」

「まだあるのですか?」

「当然よ。肝臓のデトックスには、十分な栄養素が必要なの。特に、アミノ酸」

リナは鍋に火をかけた。

「今日のメインディッシュは、多品目野菜スープ。20種類以上の野菜を使うわ」


リナは次々と野菜を切り始めた。

玉ねぎ、人参、セロリ、トマト、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ほうれん草、小松菜、ピーマン、パプリカ、ナス、カボチャ、大根、ゴボウ、レンコン、シイタケ、シメジ、エノキ、ワカメ・・・

「すごい量ですね・・・」

「これでも少ないくらいよ。多様な野菜を摂ることで、多様なファイトケミカルが摂れる。それぞれが異なる解毒作用を持ってるの」


リナは野菜を鍋に入れていく。

「玉ねぎのケルセチン(C₁₅H₁₀O₇)は、抗酸化作用と血管保護作用。人参のβ-カロテン(C₄₀H₅₆)は、体内でビタミンAに変換されるけど、植物由来だから過剰症の心配がない」

「植物由来だと?」

「動物性のレチノール(ビタミンA)は過剰摂取で中毒になるけど、植物性のβ-カロテンは必要な分だけビタミンAに変換される。余った分は抗酸化物質として働く。賢いでしょ?」


リナは次々と説明を続ける。

「トマトのリコピン(C₄₀H₅₆)は、加熱することで吸収率が2〜3倍になる。強力な抗酸化作用で肝臓を守る。ブロッコリーのスルフォラファン(C₆H₁₁NOS₂)は、第二相解毒酵素を活性化する」

「第二相?」

「さっき説明した、グルクロン酸抱合の段階。スルフォラファンは、この反応を促進する遺伝子を活性化するの。Nrf2経路って言うんだけど、解毒遺伝子のスイッチを入れる重要なメカニズムよ」


鍋には色とりどりの野菜が入っていく。

「キャベツのイソチオシアネート、セロリのアピゲニン(C₁₅H₁₀O₅)、ゴボウのイヌリン(C₆H₁₀O₅)ₙ・・・全部が協力して、肝臓のデトックスを助けるの」


リナは最後に、鶏肉を加えた。

「そして、タンパク質。鶏肉には必須アミノ酸がバランスよく含まれてる。特に重要なのが・・・」

リナは指を折って数えた。

「システイン(C₃H₇NO₂S)、メチオニン(C₅H₁₁NO₂S)、グリシン(C₂H₅NO₂)。これらは、グルタチオンの材料なのよ」

「グルタチオンの・・・材料?」

「そう。グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸から作られる。これらが不足すると、グルタチオンが合成できなくて、解毒機能が低下する」

リナは鍋に蓋をした。

「弱火で1時間。じっくり煮込んで、野菜の栄養素を抽出するわ」


一時間後。

実験室には、野菜スープの甘い香りが充満していた。

「完成!」

リナは鍋の蓋を開けた。

黄金色のスープ。色とりどりの野菜が柔らかく煮えている。

「20種類以上の野菜と鶏肉。それぞれが持つファイトケミカル、ビタミン、ミネラル、アミノ酸・・・すべてがこのスープに溶け込んでる」

リナはスープを椀に注いだ。

「これが、肝臓デトックスの最終兵器。『奇跡のスープ』よ!」


大統領の部屋。

リナは大根おろし・生姜・レモンのドリンク、緑茶、そして多品目野菜スープを並べた。

「今日のメニューは、肝臓のデトックスです」

大統領は興味津々で料理を見た。

「デトックス・・・解毒ですか」

「はい。あなたの肝臓には、500年分の合成栄養素が蓄積しています。それを排出して、肝臓を浄化します」


「痛そうですね・・・」

「痛くないわよ! 美味しいから安心して」

リナはまず、大根おろしのドリンクを差し出した。

「最初にこれを。一気に飲んでください」

大統領は恐る恐るグラスを手に取った。

白く濁った液体。辛そうな匂い。

「・・・いただきます」

ゴクリ。

「うっ!? 辛い!?」

「当然よ。イソチオシアネートの辛味。でも、この辛さが効くの」

大統領は顔を真っ赤にしながらも、飲み干した。

「はあ・・・はあ・・・すごい刺激・・・でも、体が熱くなってきた・・・」

「それが血行促進効果。生姜のジンゲロールよ」


次に、緑茶。

「これで口を洗って。そして、カテキンの抗酸化パワーを体に入れる」

大統領は緑茶を一口飲んだ。

「・・・ああ、落ち着く。苦みと甘みのバランスが絶妙ですね」

「でしょ? 70℃のお湯で淹れると、カテキンとテアニン(C₇H₁₄N₂O₃)のバランスが最高になるの」


そして、最後に野菜スープ。

大統領はスプーンでスープをすくい、口に運んだ。

「・・・!」

大統領の目が見開かれた。

「これは・・・なんという・・・」

「どう?」

「甘い。でも、ただの甘さじゃない。野菜の甘み、肉の旨味、すべてが調和している・・・こんな複雑な味は初めてだ・・・」

大統領は次々とスープを飲み、野菜を食べた。

一口、また一口。

「美味い・・・体が・・・喜んでる・・・」

そして――

大統領の目から、涙が流れた。

「リナさん・・・これが・・・本当の食事なんですね」

「ええ」

「私たちは・・・何を失っていたんだろう・・・」

大統領は震える手で、最後の一滴までスープを飲み干した。

そして、深いため息をついた。

「ありがとう・・・本当に・・・ありがとう・・・」

リナは、何も言えなかった。

ただ、静かに微笑むだけだった。


三日後。

「信じられません!」

ドクター・ジョンソンが、検査結果を手に飛び込んできた。

「大統領の肝機能が、劇的に改善しています! ALT 45 U/L、AST 38 U/L、γ-GTP 52 U/L! ほぼ正常値です!」

「たった三日で?」

「はい! それに、血中のビタミンA濃度も下がってきています。解毒が始まっている証拠です!」

リナは腕を組んで頷いた。

「順調ね。でも、まだ油断できないわ。肝臓の完全な回復には、あと一週間は必要」

「しかし、これは奇跡です!」

「だから! 奇跡じゃなくて・・・」

リナは言いかけて、ため息をついた。

「・・・もういいわ。好きに呼べばいいわよ」


その時――

実験室のドアが勢いよく開いた。

「リナさん!」

ジョンが駆け込んできた。息を切らしている。

「大変です! 大統領府の職員たち、いえ、街の人々が・・・」

「どうしたの?」

「あなたの料理を食べたいと! 大統領の回復を見て、皆が『自分も食べたい』と押しかけてきているんです!」

「え・・・?」

「宮殿の前に、数百人が列を作っています! このままでは・・・」

リナは窓の外を見た。

確かに、大統領府の正面に長い列ができている。

全員が、期待に満ちた顔でこちらを見ている。


「・・・まずいわね」

「まずい?」

「一人や二人なら対応できるけど、数百人は無理よ。私一人じゃ、とても・・・」

その時、大統領が部屋に入ってきた。

もう杖なしで歩いている。顔色も良く、目に生気が戻っている。

「リナさん、お願いがあります」

「大統領・・・」

「国民に、料理を教えてください。あなた一人では無理でも、料理人を育てれば可能です」

「料理人を・・・育てる?」

「はい。我が国には、料理という技術がありません。でも、学ぶ意欲はあります。どうか、我々に教えてください」

リナは考え込んだ。


料理を教える?

一人や二人なら教えられる。でも、国全体に?

「・・・わかったわ。でも、条件がある」

「なんでも」

「料理を『魔法』として教えない。科学として教える。化学式、栄養学、調理理論・・・すべてを論理的に説明する。感覚じゃなくて、再現可能な技術として」

大統領は微笑んだ。

「それが一番いい。我々は科学の国です。科学として料理を学べるなら、きっと受け入れられる」

「じゃあ・・・」リナは決意した。「料理学校を作りましょう。『並行世界料理アカデミー』。そこで、基礎から教える」

「素晴らしい! すぐに準備します!」

ジョンが興奮して叫んだ。


リナは窓の外の群衆を見た。

料理を知らない人々。

味を失った世界。

それを取り戻す戦いが、今、始まろうとしている。

「お父さん・・・私、とんでもないことになってきたわ・・・」

リナは父の形見のエプロンをぎゅっと握りしめた。

でも、不思議と怖くはなかった。

むしろ、ワクワクしていた。

新しい挑戦。新しい世界。


「やってやるわ! この世界に、料理を取り戻してみせる!」

リナ・ナツメの戦いは、新たな局面を迎えた。

【今回の化学式解説】

肝機能マーカー


ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):肝細胞に多く存在する酵素。肝細胞が破壊されると血中に放出される。正常値:5〜45 U/L

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):肝臓と心筋に存在。肝障害や心筋梗塞で上昇。正常値:10〜40 U/L

γ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ):胆管細胞に多い。アルコール性肝障害や胆道系疾患で上昇。正常値:10〜50 U/L


脂溶性ビタミンの過剰症


ビタミンA(レチノール) - C₂₀H₃₀O:過剰摂取で頭痛、吐き気、肝障害。妊婦の場合、胎児奇形のリスク。

ビタミンD(カルシフェロール) - C₂₇H₄₄O:過剰で高カルシウム血症、腎結石。

ビタミンE(トコフェロール) - C₂₉H₅₀O₂:通常は安全だが、極端な過剰摂取で出血傾向。

ビタミンK - C₃₁H₄₆O₂:天然型は過剰症なし。合成型は溶血性貧血のリスク。


イソチオシアネート - R-N=C=S


大根、ワサビ、キャベツなどアブラナ科植物に含まれる辛味成分。がん予防効果、抗菌作用、解毒酵素活性化作用を持つ。特にスルフォラファンは強力な第二相解毒酵素誘導物質。


ジンゲロール - C₁₇H₂₆O₄


生姜の辛味成分。抗炎症作用、抗酸化作用、血行促進作用。加熱や乾燥でショウガオールに変化し、より強い血行促進効果を示す。


クエン酸 - C₆H₈O₇


レモンなど柑橘類に多い有機酸。キレート作用により金属イオンと結合し、水溶性にする。疲労回復、カルシウム吸収促進、アルカリ化作用。


カテキン(エピカテキン) - C₁₅H₁₄O₆


緑茶の渋味成分。ポリフェノールの一種。抗酸化作用、抗菌作用、脂質代謝改善、血圧降下作用。特にEGCG(エピガロカテキンガレート、C₂₂H₁₈O₁₁)は最強の抗酸化物質の一つ。


グルタチオン - C₁₀H₁₇N₃O₆S


グルタミン酸、システイン、グリシンから成るトリペプチド。肝臓の主要な抗酸化物質。解毒酵素と結合して有害物質を無毒化。加齢やストレスで減少。


肝臓の解毒反応


第一相反応(Phase I)


シトクロムP450酵素系による酸化・還元・加水分解

脂溶性物質に-OH、-NH₂などの官能基を付加

より反応性の高い中間代謝物を生成


第二相反応(Phase II)


グルクロン酸抱合、硫酸抱合、グルタチオン抱合など

中間代謝物を完全に水溶性化

尿や胆汁として排泄可能に


ケルセチン - C₁₅H₁₀O₇


玉ねぎ、リンゴなどに含まれるフラボノイド。抗酸化作用、抗炎症作用、血管保護作用。脂質代謝改善、アレルギー抑制効果も。


β-カロテン - C₄₀H₅₆


緑黄色野菜に含まれるカロテノイド。体内でビタミンAに変換される。プロビタミンAと呼ばれ、必要量だけ変換されるため過剰症のリスクが低い。強力な抗酸化作用。


リコピン - C₄₀H₅₆


トマトに豊富な赤色色素。カロテノイドの一種。抗酸化作用はβ-カロテンの2倍以上。加熱と油で吸収率が向上。前立腺がん予防効果が報告されている。


スルフォラファン - C₆H₁₁NOS₂


ブロッコリー、キャベツなどに含まれるイソチオシアネートの一種。Nrf2経路を活性化し、第二相解毒酵素の発現を促進。がん予防、ピロリ菌除菌効果。


【肝臓デトックスの科学】

肝臓の主要な機能


代謝:炭水化物、タンパク質、脂質の代謝

解毒:有害物質の無毒化と排泄

合成:血漿タンパク質、コレステロール、胆汁酸の合成

貯蔵:グリコーゲン、ビタミン、ミネラルの貯蔵

免疫:クッパー細胞による異物除去


シトクロムP450酵素系


肝臓に存在する薬物代謝酵素群。50種類以上のアイソフォームがあり、それぞれ異なる基質を代謝。CYP1A2、CYP2C9、CYP2D6、CYP3A4などが主要。


Nrf2経路


酸化ストレスや異物に応答して、抗酸化酵素や解毒酵素の発現を制御する転写因子。スルフォラファンなどの食品成分により活性化される。


グルクロン酸抱合


UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)により、グルクロン酸(C₆H₁₀O₇)が有害物質に結合する反応。ビリルビン、ステロイドホルモン、薬物などの代謝に重要。


グルタチオン抱合


グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)により、グルタチオンが求電子性物質と結合。重金属、発がん物質、過酸化脂質などを無毒化。


ファイトケミカルによる肝保護


ポリフェノール:活性酸素の除去、炎症抑制

カロテノイド:脂質過酸化の防止

有機硫黄化合物:解毒酵素の活性化

テルペン:コレステロール代謝の改善



リナの肝臓デトックスノート


デトックスに必要な栄養素


アミノ酸


システイン:グルタチオンの材料

メチオニン:硫黄供与体、脂質代謝

グリシン:抱合反応、胆汁酸合成

グルタミン:腸管バリア維持


ビタミン


ビタミンB群:エネルギー代謝、解毒酵素の補因子

ビタミンC:グルタチオン再生、抗酸化

ビタミンE:脂質過酸化防止

葉酸:メチル化反応


ミネラル


セレン:グルタチオンペルオキシダーゼの構成成分

亜鉛:多数の酵素の補因子

マグネシウム:300種類以上の酵素反応

モリブデン:硫黄代謝



ファイトケミカル


イソチオシアネート:解毒酵素誘導

ポリフェノール:抗酸化、抗炎症

カロテノイド:膜保護、抗酸化

テルペン:代謝促進




デトックスを妨げる要因


タンパク質不足:解毒酵素の材料不足

抗酸化物質不足:活性酸素によるダメージ

食物繊維不足:胆汁酸の再吸収増加

水分不足:排泄機能低下

過度のアルコール:肝細胞の直接的ダメージ


効果的なデトックス方法


十分なタンパク質摂取(体重1kgあたり1〜1.5g)

色とりどりの野菜・果物(1日350g以上)

発酵食品で腸内環境改善

十分な水分(1日1.5〜2L)

適度な運動で血流促進

十分な睡眠(成長ホルモンによる修復)



リナの簡単レシピ:肝臓デトックスドリンク

【材料(1人分)】


大根 50g

生姜 5g

レモン 1/4個

ハチミツ 小さじ1(お好みで)

水 50ml


【作り方】


大根と生姜をすりおろす

レモンを搾る

すべてを混ぜ合わせる

辛すぎる場合はハチミツと水で調整

朝食前に飲むのが効果的


ポイント:


空腹時に飲むと吸収が良い

すりおろした直後が最も酵素活性が高い

辛味が強いので、少量から始める

胃が弱い人は食後に飲む



リナの簡単レシピ:多品目野菜デトックススープ

【材料(4人分)】


玉ねぎ 1個

人参 1本

セロリ 1本

トマト 2個

ブロッコリー 1/2株

キャベツ 1/4個

カボチャ 100g

シイタケ 4個

鶏むね肉 200g

ニンニク 1片

オリーブオイル 大さじ1

水 1L

塩、コショウ 適量


【作り方】


すべての野菜を一口大に切る

鍋にオリーブオイルとニンニクを入れて香りを出す

玉ねぎ、人参、セロリを炒める

水、トマト、鶏肉を加えて煮る

沸騰したら弱火にして20分煮込む

残りの野菜を加えてさらに20分

塩コショウで味を調える


ポイント:


野菜は季節のものを自由に組み合わせてOK

色の異なる野菜を選ぶと栄養バランスが良い

弱火でじっくり煮ることで栄養素が溶け出す

作り置きして毎日食べると効果的


応用編:


カレー粉を加えてデトックスカレースープに

トマト缶を使うとリコピンが豊富に

味噌を溶いて和風デトックススープに



【参考文献・もっと知りたい人へ】

肝臓の解毒機能


『肝臓の科学』医学書院

『解毒の科学』東京化学同人

『肝臓病の最新治療』主婦の友社

研究論文:「Hepatic Detoxification」Toxicology誌


シトクロムP450


『薬物代謝学』南江堂

『シトクロムP450の分子生物学』講談社サイエンティフィック

『Drug Metabolism and Disposition』学術雑誌

研究論文:「Cytochrome P450 Enzymes」Chemical Reviews


グルタチオン


『グルタチオンの科学』医歯薬出版

『抗酸化物質とフリーラジカル』化学同人

『The Glutathione System』学術書

研究論文:「Glutathione in Health and Disease」Antioxidants & Redox Signaling


Nrf2と解毒酵素


『酸化ストレスの医学』診断と治療社

『Nrf2転写因子の機能』実験医学

『Phase II Detoxification Enzymes』学術書

研究論文:「Nrf2 and Phase II Enzymes」Free Radical Biology & Medicine


ファイトケミカルと肝保護


『ファイトケミカル事典』学研プラス

『機能性食品と肝臓』医学書院

『植物化学成分の健康効果』朝倉書店

研究論文:「Phytochemicals and Liver Protection」Journal of Hepatology


イソチオシアネート


『アブラナ科野菜の機能性』食品と開発

『スルフォラファンの科学』化学と生物

『がん予防と食品成分』女子栄養大学出版部

研究論文:「Isothiocyanates and Cancer Prevention」Molecular Nutrition & Food Research


ジンゲロールとショウガオール


『生姜の科学』幸書房

『スパイスの科学』化学同人

『機能性香辛料』恒星社厚生閣

研究論文:「Ginger and Its Active Compounds」Phytotherapy Research


カテキンとEGCG


『茶の機能性成分』光生館

『緑茶カテキンの科学』裳華房

『ポリフェノールの健康効果』化学同人

研究論文:「EGCG and Health Benefits」Molecules誌


クエン酸とキレート作用


『有機酸の化学』東京化学同人

『キレート療法の基礎と臨床』金原出版

『ミネラルの吸収と代謝』建帛社

研究論文:「Citric Acid and Metal Chelation」Food Chemistry


ケルセチンとフラボノイド


『フラボノイドの科学』朝倉書店

『ポリフェノールと健康』幸書房

『機能性色素成分』化学同人

研究論文:「Quercetin and Vascular Health」Nutrients誌


カロテノイド


『カロテノイドの科学と最新応用技術』シーエムシー出版

『色素の機能と応用』恒星社厚生閣

『リコピンの健康効果』食品と科学

研究論文:「Carotenoids and Disease Prevention」Archives of Biochemistry and Biophysics


多品目野菜の栄養


『野菜の栄養と機能性成分』女子栄養大学出版部

『野菜のビタミン・ミネラル含有量』建帛社

『機能性野菜の科学』朝倉書店

文部科学省「日本食品標準成分表」


肝臓と栄養療法


『肝臓病の栄養療法』医歯薬出版

『臨床栄養学』南江堂

『栄養素の代謝と疾患』メディカルレビュー社

研究論文:「Nutritional Support in Liver Disease」Clinical Nutrition


デトックスの科学と誤解


『デトックスの科学的根拠』化学同人

『体内浄化の真実』ブルーバックス

『Evidence-Based Detoxification』学術書

研究論文:「Detoxification Diets: Scientific Evidence」Journal of Human Nutrition and Dietetics


免責事項

本作品は栄養学・薬理学の知識を基にしたフィクションです。肝臓疾患や重篤な健康問題がある場合は、必ず医師の診断と治療を受けてください。デトックス食品は補助的なものであり、医学的治療の代替にはなりません。大根おろしや生姜は刺激が強いため、胃腸が弱い方は少量から始めてください。アレルギーのある方は食材選びに注意してください。サプリメントの過剰摂取は避け、食事からの栄養摂取を基本としてください。


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