格差という病~料理は、すべてを解決できるのか~
開校から一週間。
ユナイティア国立料理大学は、活気に満ちていた。
しかし、リナは校長室で、深刻な表情で書類を見つめていた。
「これは...」
書類には、学生の出席状況が記録されている。
その中で、一人の学生――ケイト・ミラー――が、三日連続で欠席していた。
「エミリー、ケイト・ミラーって学生、知ってる?」
「はい」
エミリーが頷いた。
「確か、南地区出身の女子学生です。栄養学に興味があって入学したと聞きました」
「南地区...」
リナは、ユナイティアの地図を見た。
南地区は、この国で最も貧しいエリアだ。
「連絡は取れてる?」
「それが...」エミリーが困った顔をした。
「連絡先に電話しても、繋がらないんです」
リナは立ち上がった。
「行くわよ」
「え?」
「南地区に。直接確認する」
「でも、リナ...南地区は危険だって...」
「構わないわ。学生が困ってるかもしれないのに、放っておけない」
リナは、コートを羽織った。
「クロエも呼んで。三人で行きましょう」
南地区。
車を降りた瞬間、リナたちは言葉を失った。
高層ビルの谷間に、古びた低層住宅が密集している。道路は舗装されておらず、ゴミが散乱している。
「...これが、同じ国とは思えないわね」
リナは、周囲を見渡した。
人々の服は擦り切れ、顔色は悪い。
「あの...すみません」
エミリーが、近くの女性に声をかけた。
「ケイト・ミラーさんという方の家を探しているんですが...」
女性は、疑わしげな目でエミリーたちを見た。
「あんたたち、政府の人間か?」
「いえ、違います」
リナが答えた。
「私たちは、料理大学の者です。ケイトさんは、うちの学生なんです」
女性の表情が、わずかに和らいだ。
「ケイトちゃんが...大学に?」
「はい」
「...あの子、頑張ってたんだね」
女性は、奥の路地を指差した。
「あっちの、赤い屋根の家だよ。でも――」
女性は、言葉を濁した。
「でも?」
「...あの子のお母さん、病気でね。たぶん、それで学校に行けなくなったんだと思う」
リナは、女性に礼を言って、赤い屋根の家に向かった。
ケイトの家は、今にも崩れそうな小さな家だった。
リナがドアをノックすると、弱々しい声が聞こえた。
「はい...」
ドアが開いた。
そこには、痩せ細った少女――ケイト・ミラーが立っていた。
「あなたが、ケイトさん?」
「...はい」
ケイトは、驚いた顔でリナたちを見た。
「どうして...」
「あなたが欠席してたから、心配になって」
リナは、ケイトの顔色を見た。
青白い。目の下に深いクマ。唇は乾いている。
「ちょっと、入ってもいい?」
ケイトは、ためらったが、頷いた。
家の中は、家具がほとんどない。
奥の部屋で、女性が横たわっていた。ケイトの母親だろう。
リナは、母親に近づいた。
「失礼します」
リナは、母親の手首を取り、脈を診た。
弱い。不整脈がある。
リナは、母親の舌を見た。
白く、乾いている。
「...重度の栄養失調ね」
リナは、ケイトを見た。
「あなたも、栄養カプセル、満足に摂取できてないでしょ?」
ケイトは、うつむいた。
「...南地区には、配給が十分に届かないんです。私たち、一日一個のカプセルを、二人で分けて...」
ケイトの声が、震えた。
「お母さんが倒れて...私、大学に行けなくなって...でも、私、料理を学びたかったんです...」
ケイトは、涙を流した。
「料理を学べば、お母さんを元気にできるかもしれないって...だから、必死に試験勉強して...」
リナは、ケイトの肩を抱いた。
「わかった。大丈夫よ」
リナは、エミリーとクロエを見た。
「二人とも、お母さんを大学の医療室に運ぶわよ。ケイトも一緒に来て」
「でも...」
ケイトが戸惑った。
「『でも』じゃない」
リナが強く言った。
「あなたは私の学生。学生が困ってるのを、見過ごすわけにはいかないの」
リナは、ケイトを見た。
「それに、あなたのお母さんには、栄養カプセルじゃなくて、本物の料理が必要よ」
大学に戻ると、リナはすぐに医療チームを呼んだ。
ドクター・ジョンソンが、ケイトの母親を診察した。
「重度の栄養失調、脱水症状、それに...」
ジョンソンは、血液検査の結果を見た。
「タンパク質欠乏症、ビタミンB群の欠乏、鉄欠乏性貧血...」
ジョンソンは、深刻な顔でリナを見た。
「リナ先生、このままでは...一週間持たないかもしれません」
リナは、歯を食いしばった。
「...わかったわ。私が治す」
リナは、ケイトを見た。
「あなたも手伝って。お母さんのために、一緒に料理を作りましょう」
ケイトは、涙を拭いて頷いた。
「はい!」
厨房に移動すると、リナはホワイトボードに書き始めた。
「まず、現状分析」
リナは、ジョンソンから受け取った検査結果を見た。
「血中アルブミン(タンパク質): 2.5 g/dL (正常値: 3.5-5.0)
ヘモグロビン(鉄): 7.0 g/dL (正常値: 12.0-16.0)
ビタミンB1: 検出不能
ビタミンB12: 検出不能」
リナは、化学式を書いた。
「アルブミン不足ということは、筋肉が分解されて、体がタンパク質を確保しようとしている」
「ヘモグロビン(C₂₉₅₂H₄₆₁₆O₈₁₂N₈₁₂S₈Fe₄)不足は、酸素運搬能力の低下。だから、疲労感と息切れ」
「ビタミンB1(チアミン、C₁₂H₁₇N₄OS⁺)不足は、糖代謝の障害。エネルギーが作れない」
リナは、振り返った。
「つまり、必要なのは――」
【化学コラム①:栄養失調の生化学】
栄養失調は、単に「お腹が空いている」状態ではない。
生命維持に必要な栄養素が不足し、体の化学反応が正常に機能しなくなる、深刻な病態だ。
タンパク質不足: タンパク質は、筋肉、臓器、酵素、抗体など、体のあらゆる部分を構成する。
不足すると、体は自分の筋肉を分解して、必要なアミノ酸を確保しようとする(異化亢進)。
血中アルブミンが低下すると、浸透圧が下がり、浮腫が起こる。
鉄不足: 鉄(Fe)は、ヘモグロビンの中心に存在し、酸素を運搬する。
不足すると、組織に酸素が届かず、疲労、息切れ、動悸が起こる。
ビタミンB1不足: ビタミンB1は、糖をエネルギー(ATP)に変換する過程で必須の補酵素。
不足すると、脚気やウェルニッケ脳症などの神経障害が起こる。
ビタミンB12不足: ビタミンB12(C₆₃H₈₈CoN₁₄O₁₄P)は、赤血球の生成と神経機能に必須。
不足すると、巨赤芽球性貧血や神経障害が起こる。
栄養失調の治療は、単に栄養を与えるだけでは不十分だ。消化機能が低下しているため、急激に栄養を与えると、リフィーディング症候群(電解質バランスの崩壊)を起こす危険がある。段階的に、消化しやすい形で栄養を補給する必要がある。
――――――――――――――――
「まず、スープよ」
リナが言った。
「消化しやすく、栄養価が高く、そして――」
リナは、ケイトを見た。
「心が温まるもの」
リナは、食材を並べた。
「鶏肉: タンパク質とビタミンB群
レバー: 鉄とビタミンB12
卵: 完全栄養食品
ほうれん草: 鉄と葉酸(C₁₉H₁₉N₇O₆)
人参: β-カロテン(C₄₀H₅₆)、ビタミンA前駆体
生姜: 消化促進」
リナは、鍋を火にかけた。
「エミリー、鶏肉とレバーを細かく刻んで」
「はい!」
「クロエ、野菜をみじん切りに」
「了解です!」
リナは、ケイトに卵を渡した。
「ケイト、これを溶いて」
ケイトは、震える手で卵を割った。
「リナ先生...本当に、お母さん、治るんですか?」
リナは、ケイトの目を見た。
「治すわ。絶対に」
リナは、微笑んだ。
「料理は、魔法じゃない。でも――」
リナは、鍋を見た。
「科学と心があれば、人を救えるのよ」
その時、厨房の扉が開いた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、お駒だった。その後ろに、お吉とおりん。
「お駒さん」
「リナ様、お手伝いさせていただけませんか?」
お駒は、ケイトの母親の状況を聞いていた。
「わたくしたちも、江戸で同じような方々を、たくさん見てまいりました」
お駒は、静かに言った。
「貧しくて、満足に食べられない人々。わたくしたちは、そういう方々に、できるだけ栄養のあるものを、安く提供してまいりました」
お吉が、米を手に取った。
「お粥を炊きましょう。消化に良く、体を温めます」
おりんが、昆布を取り出した。
「出汁を取りましょう。滋味が体に染み渡ります」
リナは、感謝の目でお駒たちを見た。
「ありがとうございます」
一時間後。
テーブルには、三つの料理が並んだ。
一つ目: リナの栄養スープ
鶏肉、レバー、卵、野菜がたっぷり入った、黄金色のスープ。
二つ目: お駒たちの玉子粥
柔らかく炊いた米に、ふわふわの卵が絡む。
三つ目: 鉄分強化味噌汁
ほうれん草、あさり、豆腐が入った味噌汁。
「さあ、お母さんのところに持っていきましょう」
リナは、料理を載せたトレイを持った。
医療室。
ケイトの母親――メアリー・ミラーは、ベッドに横たわっていた。
「お母さん」
ケイトが、母親の手を取った。
メアリーは、弱々しく目を開けた。
「ケイト...?」
「お母さん、リナ先生が料理を作ってくれたの。食べて」
リナは、スープをスプーンですくった。
「メアリーさん、ゆっくりでいいです。少しずつ食べてください」
リナは、スプーンをメアリーの口元に持っていった。
メアリーは、一口飲んだ。
そして――
目を見開いた。
「これは...」
メアリーの目から、涙がこぼれた。
「美味しい...こんなに美味しいもの、生まれて初めて...」
メアリーは、もう一口、また一口と、スープを飲んだ。
お駒が、玉子粥をスプーンですくった。
「こちらもどうぞ」
メアリーは、粥を口に含んだ。
「温かい...体が、温かくなる...」
メアリーは、ケイトを見た。
「ケイト...あなたが作ったの?」
「リナ先生と、お駒さんたちと、みんなで作ったの」
メアリーは、リナを見た。
「ありがとうございます...」
リナは、微笑んだ。
「まだお礼を言うのは早いわ。これから、毎日ちゃんと食べてもらうから」
リナは、ケイトを見た。
「ケイトも、お母さんのために、料理を学びなさい。それが、一番の親孝行よ」
ケイトは、涙を流しながら頷いた。
その夜、リナは校長室で一人、考え込んでいた。
「南地区...栄養カプセルが十分に届いていない...」
リナは、ユナイティアの統計資料を見た。
「人口三億人のうち、南地区を含む貧困層は...二千万人...」
リナは、頭を抱えた。
「私、何やってるんだろう...料理大学を作って、エリート料理人を育てて...でも、本当に困ってる人たちには、届いてない...」
その時、ノックの音がした。
「はい」
入ってきたのは、お駒だった。
「リナ様、お休み前に、お話ししたいことがございまして」
「どうぞ」
お駒は、リナの前に座った。
「リナ様、今日、南地区を拝見いたしました」
「...そうですか」
「江戸にも、貧しい方々がたくさんおりました。長屋に住み、その日暮らしの方々」
お駒は、静かに言った。
「わたくしたちは、そういう方々のために、『施し炊き出し』をしておりました」
「炊き出し...」
「はい。月に一度、神社の境内で、無料で食事を振る舞うのでございます」
お駒は、リナを見た。
「リナ様、この大学で、同じことができないでしょうか?」
リナは、お駒を見た。
「炊き出し...を?」
「はい。南地区の方々に、週に一度でも、温かい料理を提供する」
お駒は、続けた。
「それは、慈善ではございません。料理人としての、責任でございます」
リナは、しばらく考えた。
それから、微笑んだ。
「...お駒さん、素晴らしいアイデアね」
リナは、立ち上がった。
「明日、教授会議で提案するわ。この大学の社会貢献事業として、『無料食堂プロジェクト』を立ち上げましょう」
翌日、教授会議。
リナは、マックス、ハリソン、お駒たちを前に、提案した。
「南地区を含む貧困層に、週一回、無料で料理を提供します」
「無料で?」
マックスが眉をひそめた。
「予算は?」
「大統領府に申請します。それに、この大学には、毎日大量の食材が余ってる。それを有効活用すればいい」
ハリソンが手を挙げた。
「リナ先生、それは素晴らしい提案です。しかし――」
ハリソンは、資料を示した。
「貧困層は二千万人。週一回でも、膨大な量が必要です。この大学だけでは、到底足りません」
リナは、頷いた。
「わかってる。だから――」
リナは、決意を込めて言った。
「他の世界からも、協力を得るわ」
「他の世界?」
「江戸時代だけじゃない。もっと他の時代、他の場所からも、料理人を呼ぶの」
その時――
厨房の方から、騒がしい声が聞こえた。
「何だ?」
リナたちが厨房に向かうと、そこには――
見慣れない男性が立っていた。
白いコックコート。背が高く、鋭い目つき。
そして、流暢な――フランス語を話していた。
「Excusez-moi, où est le directeur de cette université?(すみません、この大学の校長はどこですか?)」
リナは、驚いた。
彼の言葉が――理解できる。
まるで、頭の中で自動的に翻訳されているかのように。
「Je suis le directeur, Rina Natsume.(私が校長、リナ・ナツメです)」
リナは、フランス語で答えていた。
男性は、リナを見て、目を輝かせた。
「Ah! Enchantée, Madame Natsume!(ああ! お会いできて光栄です、ナツメ夫人!)」
男性は、深々とお辞儀をした。
「Je m'appelle Pierre Beaumont. Je suis chef cuisinier de Paris, France.(私の名はピエール・ボーモン。フランス、パリのシェフです)」
ピエールは、周囲を見渡した。
「J'ai entendu parler de cette université à travers le portail dimensionnel. Je veux apprendre et enseigner ici!(次元ゲートを通じて、この大学のことを聞きました。ここで学び、教えたいのです!)」
リナは、ピエールを見た。
そして――笑った。
「Bienvenue à l'Université Culinaire Nationale d'Unitia, Chef Beaumont.(ユナイティア国立料理大学へようこそ、ボーモンシェフ)」
リナは、手を差し出した。
「Nous avons justement besoin de votre aide.(ちょうど、あなたの助けが必要だったところです)」
【化学コラム②:次元ゲートの言語翻訳機能】
次元ゲート研究チームの発見によれば、異なる時空間を繋ぐゲートには、予期せぬ副作用があった――自動言語翻訳機能だ。
ゲートを通過する際、人間の脳波が一時的に変調され、言語中枢が再構成される。
その結果、どの言語で話しても、相手の母語として理解され、また相手の言語も自分の母語として理解できる。
科学的メカニズムは完全には解明されていないが、仮説としては:
量子もつれ現象: 脳の神経細胞間で、量子レベルの情報共有が起こる
時空歪曲効果: ゲートの時空歪曲が、言語情報の「普遍的翻訳」を可能にする
集合的無意識: ユング心理学の概念に似た、人類共通の言語基盤にアクセス
この機能により、江戸時代の日本人も、現代フランス人も、ユナイティアの人々も、互いに完璧にコミュニケーションできる。
ただし、書き言葉は翻訳されない。口頭でのコミュニケーションのみが、自動翻訳される。
――――――――――――――――――――――
ピエールは、厨房を見渡した。
「Magnifique! Cette cuisine est incroyable!(素晴らしい! この厨房は信じられない!)」
ピエールは、調理器具を一つ一つ確認した。
「Des outils modernes, mais aussi des techniques traditionnelles... C'est parfait!(現代的な道具と、伝統的な技術...完璧だ!)」
ピエールは、リナを見た。
「Madame Natsume, j'ai une proposition.(ナツメ夫人、提案があります)」
「Quelle est votre proposition?(どんな提案ですか?)」
「J'ai entendu dire que vous prévoyez de nourrir les pauvres. C'est noble.(貧しい人々に食事を提供する計画があると聞きました。高貴なことです)」
ピエールは、胸を張った。
「La cuisine française est connue pour sa richesse et sa sophistication. Mais à l'origine, c'était la cuisine du peuple.(フランス料理は豊かさと洗練で知られています。しかし元々は、民衆の料理でした)」
ピエールは、真剣な顔で言った。
「Je veux utiliser les techniques françaises pour créer des plats simples mais nutritifs pour les pauvres.(フランスの技術を使って、貧しい人々のためのシンプルで栄養価の高い料理を作りたいのです)」
リナは、ピエールの目を見た。
そこには、真摯な情熱があった。
「Chef Beaumont, vous êtes le bienvenu dans notre équipe.(ボーモンシェフ、私たちのチームに歓迎します)」
リナは、お駒を紹介した。
「Voici Madame Okoma, chef de l'ère Edo au Japon.(こちらはお駒さん、日本の江戸時代のシェフです)」
ピエールは、お駒に丁寧にお辞儀をした。
「Enchanté, Madame Okoma. J'ai hâte de travailler avec vous.(お会いできて光栄です、お駒さん。一緒に働けるのを楽しみにしています)」
お駒も、お辞儀を返した。
「こちらこそ、ピエール様」
ピエールは、厨房のテーブルに紙を広げた。
「Alors, discutons du menu pour les pauvres.(では、貧しい人々のためのメニューを話し合いましょう)」
ピエールは、ペンを取った。
「En France, nous avons le pot-au-feu. C'est un ragoût simple avec de la viande et des légumes.(フランスには、ポトフがあります。肉と野菜のシンプルな煮込みです)」
お駒が続けた。
「江戸には、けんちん汁がございます。根菜と豆腐を煮込んだもの」
リナが、化学式を書き始めた。
「両方とも、長時間煮込むことで、栄養素が溶け出す。水溶性ビタミン(B群、C)、ミネラル(カリウムK、マグネシウムMg)――」
マックスが、腕組みをした。
「大量調理なら、大鍋が必要だ。それに、効率的な調理法を確立しないと」
ハリソンが、計算を始めた。
「一人当たり必要なカロリーは、最低1200kcal。タンパク質50g、脂質30g、炭水化物150g...」
エミリーが、興奮した様子で言った。
「私たち学生も、手伝います! 調理、配膳、すべて!」
クロエも頷いた。
「これは、最高の実習になります」
リナは、みんなを見渡した。
そして、微笑んだ。
「じゃあ、決まりね」
リナは、ホワイトボードに大きく書いた。
『無料食堂プロジェクト:週一回、南地区で1000食提供』
リナは、振り返った。
「来週の土曜日、第一回を開催するわよ。準備を始めましょう!」
全員が、「はい!」と答えた。
その夜。
ピエールは、リナと二人で大学の屋上にいた。
「Madame Natsume, puis-je vous poser une question?(ナツメ夫人、質問してもいいですか?)」
「Bien sûr.(もちろん)」
「Pourquoi faites-vous tout cela? Vous n'êtes pas de ce monde.(なぜ、こんなことを? あなたはこの世界の人ではないのに)」
リナは、夜空を見上げた。
「私の父が、よく言ってたの。『料理は、人を幸せにするもんだ』って」
リナは、ピエールを見た。
「私、最初は科学者になりたかった。医者になって、人を助けたかった」
リナは、微笑んだ。
「でも、医学部を中退して、父の店を継いだ。最初は、逃げただけだと思ってた」
リナは、街の灯りを見た。
「でも、今わかる。料理も、人を救えるんだって」
ピエールは、静かに頷いた。
「Je comprends. Moi aussi, j'ai perdu quelqu'un à cause de la faim.(わかります。私も、飢えで誰かを失いました)」
ピエールの目が、遠くを見た。
「Ma petite sœur. Elle est morte pendant la guerre, faute de nourriture.(私の妹です。戦争中、食べ物がなくて死にました)」
ピエールは、拳を握った。
「C'est pourquoi je suis devenu chef. Pour que personne ne meure de faim.(だから私はシェフになりました。誰も飢えで死なないように)」
リナは、ピエールの肩に手を置いた。
「一緒に、頑張りましょう」
ピエールは、微笑んだ。
「Oui. Ensemble.(はい。一緒に)」
【今回の化学式解説】
ヘモグロビン: C₂₉₅₂H₄₆₁₆O₈₁₂N₈₁₂S₈Fe₄
赤血球中の酸素運搬タンパク質。鉄(Fe)を含む。
チアミン(ビタミンB1): C₁₂H₁₇N₄OS⁺
糖代謝に必須の補酵素。不足すると脚気になる。
ビタミンB12: C₆₃H₈₈CoN₁₄O₁₄P
コバルト(Co)を含むビタミン。赤血球生成と神経機能に必須。
葉酸: C₁₉H₁₉N₇O₆
細胞分裂と赤血球生成に必須。妊婦に特に重要。
β-カロテン: C₄₀H₅₆
植物に含まれる色素。体内でビタミンA(C₂₀H₃₀O)に変換される。
【今回の簡単レシピ:栄養満点スープ】
材料(4人分):
鶏肉 200g
レバー(鶏または豚) 50g
卵 2個
ほうれん草 1束
人参 1本
生姜 1片
鶏ガラスープの素 大さじ1
塩 少々
作り方:
鶏肉とレバーを細かく刻む
鍋に水800mlを入れ、鶏肉、レバー、刻んだ生姜を入れて煮る
アクを取りながら、20分煮込む
野菜を細かく刻んで加え、さらに10分煮る
鶏ガラスープの素と塩で味を調える
溶き卵を回し入れて、ふんわり仕上げる
ポイント: レバーは鉄分とビタミンB12が豊富。卵は完全栄養食品。ほうれん草は鉄と葉酸を含む。栄養失調からの回復には最適なスープです! 消化しやすいように、材料は細かく刻むことが重要。




