第12話未来へ向かって
朝の光が差し込む窓辺で、私はゆっくりと目を開けた。
日常が少しずつ元に戻りつつある。先日、ステージでのパフォーマンスを終えた後から、周囲の反応が変わり始めた。
SNSには私を応援するメッセージが増え、ライブのチケットもすぐに売り切れた。
ファンの温かい支えが、どれほど私を救ってくれたか、言葉では表せないほどだった。
しかし、心のどこかにはまだ不安が残っていた。
陸との関係が少しずつ変わっていくことに、私は無意識のうちに恐れていたのかもしれない。
もう一度、私たちはお互いにどう向き合うべきなのか、はっきりとした答えを出せていなかった。
朝の支度を整えながら、ふと考え込んだ。
昨晩、私と陸はまた少し距離ができてしまった。
彼の表情に、何かを我慢しているような、私に言いたいことがあるような気配を感じたけれど、私も言葉を選んでしまった。
本当は、もっと素直になりたかった。
でも、私がアイドルとして立ち上がる姿を見せることが最優先だと思って、どうしてもその思いを先に押し込めてしまっていた。
「ほのか、準備できたか?」
リビングから陸の声が聞こえてきた。
「うん、すぐ行く」
私は急いで支度を終えて、リビングに向かう。
陸がテーブルに置いたコーヒーを、私は少しだけ手をつけた。
何も言わずに、ただ黙ってコーヒーを飲む二人の間に、少し重苦しい沈黙が流れた。
「陸くん…」
私が口を開いた瞬間、陸は顔を上げ、少し驚いたような顔をした。
「何か言いたいことがあったら、言っていいんだよ」
その言葉に、私は思わず顔を赤くした。
「私は、今、ちゃんと立ち上がりたいって思ってる。アイドルとして、音楽でファンを支えていきたい。だけど、陸くんとの関係も大切にしたいって…」
言葉にしながら、自分の気持ちが少し整理できた気がした。
陸は黙って私を見つめていたが、やがて優しく微笑んだ。
「ほのか、俺も同じだよ。お前がアイドルとして、しっかりと立ち上がっていく姿を見るのが、俺の一番の願いだ。だけど、俺たちの関係も大事にしていきたい」
その言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。
陸も、私を支えようとしてくれている。どんな形であれ、私たちはお互いに信頼し合っているのだと、改めて実感できた。
「じゃあ、一緒に頑張っていこう。アイドルとして、そして私たちとして」
私は決意を込めて言った。
陸も頷きながら、穏やかな笑顔を見せた。
「うん、もちろん」
その後、私たちはライブの準備を進めるために事務所に向かった。
昨晩、ファンからのコメントやメッセージを見返しながら、私は改めて自分の進むべき道を見つけた気がした。
ファンに支えられて、私はアイドルとしての自分を守ることができる。そして、陸との関係も、どんな形であれ大切にしていきたい。
事務所に到着すると、スタッフたちが忙しそうに動いているのが見えた。
先日のライブから、もう次のイベントに向けて準備が進められていた。
「桜井さん、お疲れ様です!」
スタッフの一人が、笑顔で声をかけてきた。
「お疲れ様、今日は何か手伝えることがあれば言ってね」
私は軽く挨拶しながら、事務所内を歩いていると、急にマネージャーから呼ばれた。
「桜井さん、少しお話があります」
「何でしょうか?」
マネージャーは少し神妙な顔で、私を会議室に案内した。
「実は、次回のライブの前に、ちょっとしたサプライズがあります」
「サプライズ?」
「はい。スポンサーからの提案で、今回のライブでは新曲の発表も予定しています。ただ、その前にファンとの交流イベントを行いたいとのことです」
その提案に、私は少し驚きながらも興味を持った。
交流イベント――ファンと直接触れ合う機会は、アイドルとして大切なものだ。
「そのイベント、いつ頃行う予定ですか?」
「ライブの一週間前に、少人数でのファンミーティングを開催します。そこに参加したファンの中から、選ばれた数名がライブで直接サポートしてくれることになるんです」
「それは面白いですね。私も参加して、ファンの反応を直接感じてみたいです」
「では、是非参加していただけると嬉しいです。事務所としても、これからの展開に向けて、さらにファンとの絆を深めていくことが重要だと考えています」
その話を聞いて、私は胸の中で決意を新たにした。
これから、もっとファンとの距離を縮め、彼らの期待に応えられるように成長していくことが私の使命だ。
イベントが決まった後、準備が着々と進んでいった。
ファンミーティングの内容も決まり、私は少しだけ緊張しながらも、楽しみにしていた。
そして、その日が来た。
会場に到着すると、すでにたくさんのファンが集まっていた。
彼らの顔を見ると、私は不安もあったが、同時に自分が今やらなければならないことが明確になった気がした。
「桜井さん、頑張ってください!」
あるファンが声をかけてきた。
その笑顔に、私は自然と笑顔を返した。
「ありがとう、頑張るね!」
そして、イベントが始まると、ファンとの交流がとても温かいものだと感じた。
ファンの一人一人が私を応援し、励ましてくれる。その一言一言が、私を強くしてくれた。
陸も、遠くで私を見守っているようだった。
彼の姿を見つけると、少し安心する自分がいた。
その後、ファンとの交流が終わり、私は控室でふとひと息ついていた。
その時、陸が私のところに来て、言った。
「お前、すごく成長したな。見ていて嬉しいよ」
その言葉に、私は少し照れくさい気持ちになりながらも、心から笑顔を見せた。
「ありがとう、陸くん」
その時、私は確信した。
これから先、どんな困難が待ち受けていようとも、私は前を向いて歩いていく。
そして、陸と一緒に歩んでいけることが、私にとって何よりも幸せなことだと、心から感じていた。




