第10話再起と覚悟
NSが騒がしくなる中、私は静かに深呼吸をした。
翌日、事務所の会議室で私と陸、そしてスタッフが集められた。
陸は、いつものように真剣な表情で会議に参加している。その横顔は、以前よりも少し大人っぽく見えた。
私は、どこか遠くの景色を見ていた。
気持ちを整理するために、ただ無心で会議の内容を聞くしかなかった。
「桜井ほのかさんのスキャンダルについて、詳細を確認しました。特に、SNSの拡散が問題となっています」
事務所のマネージャーが、緊迫した口調で説明を続ける。
「まず、写真の出所は不明ですが、当初は単なる噂に過ぎなかった。しかし、ネットニュースに取り上げられたことで、実際に広まったことが確認されました」
「私たちができることは、できるだけ早く沈静化させることです。桜井さんには今後、積極的にSNSを使わないように指導します」
陸が静かに手を挙げた。「待ってください。こんな形でほのかが責められるのは、納得できません」
「でも、今はどうしても沈黙しているしかない状況だ。私たちが何かを言っても、逆効果になるかもしれません」
マネージャーは、現実的な意見を述べる。しかし、私はその言葉がどこか遠く感じた。
確かに、SNSは今や一度広がったら、誰にも止められない。でも――私はもう逃げたくなかった。
「私、やります」
皆が一斉に私を見た。
その視線を受けて、私はもう一度深呼吸をした。
「私は、この状況を自分で解決したい。陸さんと作った曲が、私にとってどれほど大切か、ちゃんと伝えたいんです」
その言葉には、決意が込められていた。
「ほのか……」
陸の声は、少し震えていた。それでも、私は微笑んで彼に言った。
「ありがとう。でも、私は自分で乗り越えたい。もう、誰かの助けを待つだけじゃない。私がアイドルとして、ちゃんと立ち向かうべきだと思うから」
その後、数日間はメディアの取材とファンからの応援の声が殺到した。
事務所のスタッフはもちろん、周囲からのサポートもありがたかった。しかし、心の中で感じていたのは、どうしても消えない違和感だった。
あのスキャンダルの写真が拡散されたことによって、私はどこかで「陸と親しい=裏切り」と見なされている気がしてならなかった。
そして、私は決断した。
自分の言葉で、自分の立場をはっきりと伝えようと。
翌日のインタビューでは、テレビカメラの前で座っている私に、記者たちが一斉に質問を投げかけた。
マイクを手に取ると、少しだけ震える手を感じる。しかし、それでも私は強く顔を上げた。
「桜井ほのかさん、あなたと作詞作曲家の陸くんとの関係について、ファンから疑問が上がっています。これについてどう思いますか?」
記者が最初に投げかけた質問は、予想通りだった。
「陸さんと私は、音楽を通じて知り合いました。彼と作った曲が私にとってどれほど大切なものか、みなさんにも伝えたくて。それが私の素直な気持ちです」
一瞬、会場が静まり返った。しかし、その後、記者たちは再び質問を続けた。
「アイドルとファンの関係としては、私生活も気になるところです。特に男性との関係については、どのように考えていますか?」
「私は、アイドルとしてファンの皆さんに応援してもらっていることを心から感謝しています。しかし、私は“桜井ほのか”という名前だけでなく、一人の女性としても生きていきたい。これからも、音楽を通じて自分の気持ちを伝えていきたいと思っています」
「つまり、陸さんとの関係はプライベートなものだと?」
私はその質問に、少しだけ言葉を濁した。
「それがどうであれ、私の歌を聴いて応援してくれるファンの皆さんに感謝しています。私の声と音楽で、少しでも勇気を与えられたらいいなと思っています」
その後、インタビューは続き、私は一貫して前向きな姿勢を崩さなかった。
そして、最後に記者が言った一言が、私の胸に突き刺さった。
「ただ、ほのかさん。ファンの中には、今回のことを“裏切り”だと感じている人もいます。その点については、どうお考えですか?」
その言葉に、心の中で叫びたくなった。
私は裏切ってなんかいない。
私が選んだのは、自分自身の道だった。
会見後、事務所に戻ると、陸が待っていた。
彼は心配そうに私を見ていたが、何も言わずに歩み寄ってきた。
「お疲れさま、ほのか」
その一言に、涙がこみ上げた。
「私は、もう逃げたくない。陸さんと作った音楽を、ちゃんと信じていきたい」
陸は黙って、私の手を握った。
「俺も信じてる。お前の気持ち、音楽が届けてくれることを」
その言葉に、私はまた少しだけ力をもらえた。
だけど、ここからが本当の試練だ。
ファンからの反応は賛否両論。
私の覚悟を見せるのは、これからだ。
次に何が待っているのか、まだ分からない。
でも、私は自分の音楽で、前に進んでいく。




