第1話ライブ乱入事件、そして救出
初めまして。
普段はカクヨムで執筆している詩乃アルと申します。
自分は語彙力がないので間違えていたらご指摘のほどよろしくお願いします。
その日は、いつもと違う空気が流れていた。
放課後の音楽室で最後のコード進行を確認した後、俺――神谷陸はヘッドホンを外し、深く息を吐いた。
「……よし、これでいける」
作詞・作曲家としてインディーズ活動を始めてから、約1年。
最近ようやく小さな音楽事務所からも声がかかるようになり、楽曲提供の話もちらほらと舞い込んでくるようになった。
まだプロとは言えない。けど、夢の輪郭は、少しずつ形を持ちはじめていた。
今日、俺はあるライブに招待されていた。
それも、ただの観客ではない。
“関係者席”――そう、俺が作った楽曲が使われたことによる、いわば特別待遇だ。
そして、そのライブの主役こそ、いま絶大な人気を誇るトップアイドル「一ノ瀬ほのか」だった。
彼女の名前を初めて聞いたのは、友人に強引に見せられた音楽番組だった。
その日以来、俺は彼女のことが頭から離れなかった。
キラキラとした笑顔。
まっすぐに届く歌声。
そして、どこか陰を秘めた瞳。
「ステージの上の彼女」と「本当の彼女」が違うように見えたのは、気のせいだったのかもしれない。
けれど、俺は勝手に確信していた。
――この人には、本当の心をぶつけた曲が必要だ、と。
そして、俺は曲を書いた。
ひたすら彼女のことを思い浮かべながら、何度も書き直して、ようやく完成させた一曲。
それが偶然、彼女の所属事務所の目に留まり、今回のライブで使用されることになった。
「……人生って、ほんとわかんねぇな」
ライブ会場に到着した俺は、関係者入口から会場内へと案内された。
舞台を斜め上から見下ろせる特等席。
広いホールにはすでにファンの熱気が溢れていた。
照明が暗くなり、歓声が響く。
「さぁー!みんな準備はいいー!?」
スクリーンに映し出される鮮やかな映像。
そして、登場したのは――彼女だった。
一ノ瀬ほのか。
センターに立ち、眩しいスポットライトを浴びた彼女は、まるで別世界の人間だった。
だが、その瞬間。
俺の胸の中に、不思議な感覚が走った。
ステージが、ざわついた。
異常な空気。
周囲のスタッフが慌ただしく動き始める。
「え、なに……?」
観客たちの悲鳴が、次第に会場を満たしていった。
「誰かが乱入した――!?」「スタッフじゃない!」「逃げろっ!」
その言葉に、観客席は一気にパニックになった。
最前列を突っ切って、男がステージに駆け上がろうとしていた。
明らかに不審な様子。
警備が間に合わない。
その瞬間だった。
本能で動いていた。
「っ……!」
俺は席を飛び出し、ステージ脇へと駆け出した。
舞台袖にいたスタッフの隙をすり抜け、ステージ裏へ。
「危ないっ!」
ほのかの前に立ちはだかるようにして、俺は彼女を抱き寄せ、ステージの後方へと倒れ込んだ。
「――っ!」
背中に感じた痛みはあったが、それよりも先に、抱きしめた彼女の体の震えを感じた。
「だ、大丈夫ですか!? 一ノ瀬さん!」
俺が声をかけると、彼女は俺を見上げた。
その瞳は、大きく見開かれ、涙が浮かんでいた。
けれど、その奥にあったのは――怒りでも、悲しみでもなかった。
「……あなたは、誰?」
「えっと……関係者席にいた神谷っていいます。君の曲、書いたんです」
その瞬間、彼女の目が少しだけ揺れた。
「――そっか。じゃあ、あなたが」
警備員が駆け寄り、乱入者を取り押さえ、会場が落ち着きを取り戻していく。
騒動は大事には至らず、怪我人も出なかったが、ライブは中止となった。
俺は警備員に事情を説明した後、控室に通された。
しばらくして、扉がノックされる。
「神谷さん?」
声をかけてきたのは、他でもない――一ノ瀬ほのかだった。
「さっきは、助けてくれてありがとう。……あなたがいなかったら、私は……」
「とっさに体が動いただけだよ。君の曲を書いた人間として、目の前で何かあってほしくなかっただけ」
俺がそう言うと、彼女は少し寂しそうに笑った。
「……あなたの曲、すごく響いた。まるで、私の本当の心を見透かされてるみたいだった」
「……君のことを想って、書いたから」
思わず口をついて出たその言葉に、俺は自分で驚いた。
けれど、ほのかはその言葉を、まっすぐに受け止めてくれた。
「だったら――責任、取ってもらうからね」
「えっ?」
「私、あなたの音楽じゃないと、もう歌えないかもしれない。……だから、これからも、私の曲を書いて」
その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
「……了解。これからも、君の本当の心が歌えるような曲を、書き続けるよ」
その瞬間、何かが始まった気がした。
音楽だけじゃない、もっと深い、何か。
それが恋なのか、まだこの時の俺にはわからなかった。
けれど――。
一ノ瀬ほのかとの出会いが、俺の人生を変えたことだけは、確かだった。