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エピソード9:私の名前はレイです。

「……うーん」

眠気が残る声が漏れる。窓から差し込む太陽の光で目を覚ました。昨夜、レイという名の子供を部屋に残した後、俺は泥のように眠りに落ちていた。

ベッドから起き上がり、外出の準備を整える。今日はギルドへ行き、自分にできる仕事を探すつもりだ。一週間も何もせずにぶらぶらしているのは、精神的にくる。

部屋を出て、隣の部屋の前に立つ。あのガキがまだいるか確認するためだ。ドアを二回ノックしたが、返事はない。嫌な予感がしてドアを開けると、そこはすでにもぬけの殻だった。昨夜の夕食の皿だけが、寂しく机に残されている。

結局、逃げたか。まあ、俺にできることはした。もう二度と会うこともないだろう。

一階へ降りると、宿の主人が誰かと話し込んでいるのが聞こえた。

「旦那、本当にこんな特徴のガキを見てねえのか?」

「さっきも言った通りだ。何も知らんよ」

受付に降りると、そこには態度の悪い、大柄な三人組の冒険者がいた。

「おい、そこのガキ! 獣人の子供を見かけなかったか?」

リーダー格の男が、俺に気づくと威圧的に問いかけてきた。だが、俺は怯むことなく、感情を押し殺した声で短く答えた。

「何も見ていない」

「……チッ」

大男は最後に俺を睨みつけ、舌打ちをして去っていった。

「……ご迷惑をおかけしました」

俺は素直に頭を下げた。俺のせいで宿の主人がこんな連中の相手をすることになったのだ。主人は俺を見ようともせず、背を向けたまま呟いた。

「……二度と連れてくるなよ」

分かっている。彼はこれ以上のトラブルを望んでいないのだ。だが、心配はいらない。あのガキはとうに消えた。もう会うこともないはずだ。

一週間の休息を終え、俺はギルドの掲示板の前に立っていた。そろそろ働かないと、ビクターへの借金も返せない。我ながら、借金がある身で休もうなんて、どうかしていた。

掲示板にはブロンズランクの依頼が並んでいる。ゴブリンやオークの討伐……。その中で、一つの依頼が目に留まった。

「近隣の村へ行き、手紙と物品を届ける仕事か」

報酬は銀貨五枚。ただの運び屋にしては破格だが、背に腹は代えられない。俺はその依頼書を剥ぎ取り、受付へ向かった。

北西へ向かって街を出る。村までは徒歩で五時間。夜までには到着できるだろう。村に泊まるのも手だが、少しでも節約したいところだ。

道中、魔物の襲撃はなかった。のどかな田舎道で、時折すれ違う旅人に道を尋ねると、俺のプレートを見て親切に教えてくれた。これほど魔物がいないのは、他の冒険者が掃討した後なのだろうか。あるいは、運がいいだけか。

五時間の歩行の末、ようやく村に到着した。そこは百五十人ほどの小さな集落で、家々は古い木と泥、藁で作られていた。王都モンロイの喧騒とは対照的な、純粋な農村だ。

村人たちは忙しそうに働いていたが、冒険者慣れしているのか、俺には一瞥をくれるだけで特に関心を示さなかった。

掲示板の指示通り、「鳩のような鳥の紋章」がある家を探し、無事に荷物を届けた。

依頼主は赤い封蝋が押された封筒と、いくつかの貴重品を俺に預けた。「封を解けば罰則だ」という念押しと共に。最後に受領印をもらい、俺はすぐに村を後にした。

日が暮れる前に街へ戻りたかった。日本の常識を超えた身体能力があれば、風の魔法を使って疾走することもできる。だが、それは目立ちすぎる。俺は「普通の冒険者」として、淡々と道を歩き続けた。

一、二、三……。五時間が経過し、ようやく王都の城壁が見えてきた。

だが、門の近くで足が止まった。数台の馬車が列をなしている。それは荷馬車ではなく、檻だった。

檻の中には、狐、狼、猫、虎……様々な種類の獣人が詰め込まれていた。そのほとんどが子供だ。

俺の目は、その光景を反射的に拒絶した。だが、これがこの世界の現実だ。

検問を抜け、キャラバンを背にする。一瞬、振り返りそうになったが、関われば面倒なことになるだけだ。俺に何ができる? 何もできやしない。

(……そういえば)

ふと、あの犬耳のガキ――レイの顔が浮かんだ。朝起きたらいなくなっていたが、あの追っ手たちの様子からして、逃げるしかなかったのだろう。

まあ、いい。終わったことだ。

依頼主に手紙と品物を届け、受領印入りの書類をギルドに提出した。

クラリッサは「ブロンズランク最初の依頼、お疲れ様です!」と満面の笑みで祝福してくれた。正直、少し居心地が悪い。

報酬を受け取り、ギルドを出る頃には夜の帳が下りていた。宿の親父の飯を楽しみに、角を曲がり、路地裏へ入った時だ。

背後に気配を感じた。殺意はないが、鋭く、突き刺さるような視線。

俺は歩を早めたが、気配は執拗についてくる。苛立ちのままに足を止め、踵を返して背後を睨みつけた。

「……!?」

絶句した。そこにいたのは刺客ではなく、小さな影だった。

赤銅色の髪。犬のような耳と尻尾。ボロボロのリネンの服をまとった、あのガキ。

「……こんにちは。覚えてる? 僕の名前、レイだよ」

俺が助けたはずの子供が、再び目の前に現れた。

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