第6話:前に進む
図書館での調査から二日が経過した。その間、俺はゴブリン狩りに専念していたが、ステータスが停滞していることに気づいた。
「これ以上、ゴブリンを狩っても効率が悪いな……」
俺は別の方法でレベルを上げることを決意した。
ギルドに向かい、依頼ボードを眺めていると、一つの依頼が目に留まった。オークの討伐。
今の俺のアドベンチャラーランクでは本来受けられない依頼だ。だから、これは「公式」ではなく、あくまで秘密の狩りとして街を出る。
オーク。屈強な肉体と緑の肌、鋭い牙を持つ獰猛な人型モンスター。
俺は街の南側に広がる森へと足を踏み入れた。商人の往来が激しいこの街道近くでオークが出るのは、街にとっても死活問題だ。
「……まずは風で探るか」
森の深部に入り、マナを練り上げる。放った風の精霊が周囲を索敵し、20分後、北の方角に反応があった。
俺は『魔眼』を発動させる。この眼はレベルだけでなく、対象の「魔力の残滓」まで視覚化してくれる。
(見つけた……)
茂みに隠れて様子を伺うと、そこには身長2メートルを超える巨漢がいた。筋骨隆々の体に不格好な棍棒。レベルは25。
今の俺なら問題ないはずだが、油断は禁物だ。俺は黒い剣を抜き、風の魔法を身に纏った。
――疾風。
超加速した俺の動きに、オークは反応すらできなかった。
一閃。正確無比な一撃がオークの首を撥ねる。本人が気づく暇もないほどの速度。崩れ落ちた巨体は灰となり、そこにはエメラルド色の魔石が残された。
「ゴブリンのより、ずっと大きいな」
確かな手応えを感じ、俺はさらに森の奥へと突き進んだ。
★★★
その頃、ギルドの最高責任者室には、二人の男がいた。
一人はギルドマスター、ルチアーノ。灰色の瞳を持つ、老練な老人だ。
もう一人は、銀ランクの冒険者ロベルト。褐色肌で禿頭、立派な髭を蓄えた男だ。
「ルチアーノ様、本当によろしいのですか?」
「……侯爵様からの直命だ」
ギルドマスターの言葉に、ロベルトは顔をしかめた。
「あの侯爵は恐ろしいお方だ。幼い子供まで利用するとは……」
「全くだ。だが、この街の孤児どもも、最後に少しは役に立つということだろう。ははは」
「……誰にも気づかれぬよう、処理いたします」
ロベルトが退室した後、ルチアーノは新人冒険者の書類に目を落とした。
「結局、使えないゴミばかりか……」
その手にある書類には、『ケンジ・ワタナベ。銅ランク。レベル13』と記されていた。
★★★
結局、俺はさらに3匹のオークを仕留めた。二匹目からは風の魔法を解いて戦ったが、それでも驚くほど簡単に勝てた。レベル13とはいえ、ステータスの質が違うようだ。
「ふぅ……一休みするか」
木漏れ日が心地いい。これはあくまで訓練だが、収穫した魔石をどう処分するかが問題だ。クラリサさんに怪しまれずに売る方法を考えなくてはならない。
ランクアップの申請もしたいが、街に来て二週間の新人がオークを狩ったと言えば、騒ぎになるだろう。
「……あそこに寄ってみるか」
街に戻った俺は、路地裏にある隠れた店へと向かった。
店主の名はヴィクトル。俺がこの世界に来て路頭に迷っていた時、助けてくれた商人だ。今の俺の服も彼から譲り受けたもので、引き換えに俺は日本の学生服を売った。
「こんにちは……」
店内は狭いが、武器や防具、道具が所狭しと並んでいる。
「おや、少年。いつの間に……気づかなかったよ」
奥から現れたのは、茶色の瞳をした大男、ヴィクトルだ。
「装備を見に来ました」
「ほう、俺がやった服はもうダメになったか?」
「いえ、最高ですよ。ただ、他に何があるか気になって」
今着ている黒いコートとブーツは、彼が「ワイバーンの皮」を使って作った試作品だという。非常に丈夫で動きやすい。
店内を物色していると、一つだけ、襟元に金の刺繍が施された豪華な衣装が目に留まった。
「……10銀貨!?」
思わず叫んでしまった。高すぎる。
「それは特別製だ。同じワイバーンの皮だが、50%の自動治癒魔法が組み込まれている。軽微な傷なら勝手に治る、最高傑作のプロトタイプさ」
魔法騎士団が使うような高級品でも10%程度だと聞いたことがある。50%は異常だ。なぜこんな路地裏で安売りされているのか……。
「……これ、買います」
「まいど。だが、金はあるのか?」
俺はカウンターに、今日狩ったオークとゴブリンの魔石を15個並べた。
「ギルドを通さず、これで払いたいんです」
「……オークの魔石か。密猟だな? まぁ、珍しい話じゃないが」
ヴィクトルは苦笑しながら査定してくれたが、魔石だけでは銀貨2枚にしかならなかった。残りの8枚は分割払いの借金。
新しい装備を手に入れ、俺はヴィクトルからランクアップの条件を聞き出し、店を後にした。




