第5話:知識の扉と、泥の中の瞳
ケンジが家に帰っている間に。モンロイの街に住む、犬耳と銅茶色の髪をした10歳くらいの少年。子供はボロ布を着ており、一見すると栄養失調や殴打などの兆候が見られた。それが亜人の運命だった。半人半獣の種族。
イベリア王国には様々な種族がいるが、支配的なのは人間だ。そして、亜人は奴隷として扱われている。この王国では亜人を奴隷にすることは合法であり、彼らには人権がない。それはここ、モンロイでも同じことだった。
少年の名はレイ。街を彷徨う孤児だ。 食べ物を探して歩く彼を、通り過ぎる人々は嫌悪と憎しみの目で見つめる。彼に手を差し伸べる者は誰もいない。
「大嫌いだ、この国なんて……」
レイは誰にも聞こえないような声で呟いた。歩き続けていた彼は、不注意から一人の人物とぶつかってしまった。
「すまない」
その人はそう言うと、先へ進んだ。レイは気に留めず歩き出したが、一瞬だけ、ぶつかった相手を振り返った。 黒い髪をした、冒険者のような格好の青年。 これは偶然の出会いか、それとも仕組まれたものか。知る術はないが、確かなことが一つある。この出会いが二人の人生を大きく変えることになる。
◇
ゴブリン狩りを終えてモンロイの街に戻った俺は、不意に亜人の子供とぶつかった。 謝ってそのまま通り過ぎたが、俺が向かっていたのは街の図書館だ。 この世界のことをもっと知りたい。調査を後回しにしていたが、今こそこの世界について知るべき時だと思ったんだ。
クラリサさんが地図に書いてくれた指示通りに進む。その説明は正確で分かりやすく、俺はようやく図書館に辿り着いた。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、綺麗な女性が迎えてくれた。 入り口に立っただけでも分かるが、ここはとてつもなく広く、素晴らしい装飾が施されている。異世界の場所にふさわしい光景だ。 壁はマーブル模様の白。天井から吊るされた魔導ランプはエレガントで、働いている人々は白シャツに黒ネクタイの制服を着ていた。男性はズボン、女性はスカートだ。
カウンターへ向かう途中、延々と続く本棚の列が見えた。
「何かお探しですか?」 「はい。この大陸の歴史が書かれた本を読みたいのですが」 「かしこまりました。こちらへどうぞ」
受付嬢についていく。本当に、この場所の眺めは信じられないほどだ。
「こちらです。この下の棚に世界の歴史と大陸の資料があります。本が決まりましたら、あちらの席で読むことができますよ」 「ありがとうございます」 「一つお伝えしておきますが、館内への武器の持ち込みは禁止されています」
俺の剣を見て、彼女は言った。仕方なく剣を預け、後で受け取ることにした。これでようやく一人になれる。 俺は指定された場所で情報を探し回り、ついに目を引く二冊の本を見つけた。テーブルに運び、中を確認する。
『過去の英雄たち』 『ウルス大陸史』
俺が一番気になったのは英雄たちの本だが、まずはこの世界の歴史からだ。 『ウルス大陸史』を開くと、そこには詳細な地図があった。ギルドの外にあったのと同じ地図だ。 大陸全体は広大で、三つの地域に分かれている。東の「エリア」、中央の「モンタグラン」、そして西の「アラミス」。 イベリア王国は東のエリア地方に位置している。この大陸には人間、獣人、エルフ、ドワーフといった様々な種族が住んでいるらしい。
「エルフ……」
その名を聞いて衝撃を受けた。二週間この世界にいて、人間以外に見たのは亜人だけだったからだ。本によれば、エルフは中央のモンタグラン地方に住んでいるという。 他にもモンスターや魔族が存在する。魔族についての詳細は少なかったが、80年前の「聖戦」で大陸から追放された邪悪な種族だと説明されていた。
さらに本には、一定の周期で各国の教会が「英雄」として強力な存在を召喚し、魔族と戦わせると書いてあった。それが80年前のことだ。 俺がこの世界に来たのも、何かの召喚なのだろうか。異世界の存在については、実際に俺がここにいるから信じられる。ただ、本には「教会が召喚する」とある。俺の場合は教会ではなく、森の中に現れた。
読み進めると面白いことが分かった。この世界には「レベルシステム」があり、種族によって差はあるが、全ての種族に適用されている。
必要な調査を終えた俺は、次の本を手に取った。 『過去の英雄たち』。 興味深い表紙の本だ。そこには、魔族と戦った英雄たちの物語が記されていた。
俺はそのまま、過去の英雄たちの歴史を読み耽った。




