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第10話:六人の亜人の子供たち「稽古をつけてください」


その少年は、俺の前に立っていた。前回とは違い、その瞳に野性的な警戒心はもうなかった。俺は苛立ちと驚きが混ざり合った気分で彼を眺めた。なぜこのガキがまた俺を訪ねてきたのか、さっぱり理解できなかった。

「……ここで何をしてる?」

俺はいつものぶっきらぼうな声で、即座に説明を求めた。

「た、助けてもらったお礼を言いたくて、旦那……」

最初はたどたどしく言ったレイだったが、すぐに気を取り直して深く頭を下げた。その真剣な様子から、彼が心から感謝していることは疑いようもなかった。

「礼ならもういい。……失礼するぞ」

俺は彼の脇を通り抜けようとした。今の俺の目的は、宿に戻ってまともな飯を食い、ベッドに倒れ込むことだけだった。この子供が厄介事しか持ってこないことは分かっていたし、正直に言えば関わりたくなかった。

「あ、待ってください!」

レイが叫んだ。彼は必死に走り回り、再び俺の前に立ちはだかって行く手を阻んだ。

「……何が目的だ?」

俺はさらに威圧的な視線をガキに向けた。一瞬、少年は俺の気圧されて後ずさりした。その反応を見て、俺は少し迷った。子供相手にここまで厳しく接するのが正解なのかは分からなかったが、これが俺なりの防衛本能だった。

レイは残りの勇気を振り絞るようにして、再び口を開いた。

「お、お願いがあるんです……」

彼がそう言った瞬間、俺は眉をひそめた。路地裏の薄暗がりの中で、ガキは本当の望みを口にした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

それから間もなくして、俺はレイを元の場所で降ろし、宿へと向かった。口数の少ない宿の主人が夕食を運んできた。食堂は珍しく空いており、俺は一人でパンの塊と鶏の脚肉を頬張り、ワインを流し込んだ。

ちなみに、元の世界の基準では俺はまだ未成年だが、この世界では15歳から成人として扱われる。宿の主人によれば12歳から酒を飲んでもいいらしいので、初めてのワインを注文してみた。味はきつかったが、俺の意識は別のところにあった。レイの願いだ。俺ははっきりとした返事をしていない。できなかったわけではないが、何と言えばいいのか分からなかった。あのガキは、間違いなくトラブルを引き寄せる磁石だ。

夕食後、俺は宿の裏庭へ向かった。この世界に来てからの日課通り、剣を抜いた。日本で学んだ剣道の型と、護身用の格闘術を組み合わせた独自のセット。この世界では、魔物との実戦を通じてそれらを磨き上げてきた。絶え間ない訓練がなければ、俺の動きは運がいいだけの素人と変わらないだろう。幸い、この大陸の正式な戦闘スタイルとはまだ遭遇していないし、正直、今後も関わりたくはなかった。俺は服が汗でびっしょりになるまで打ち込み、体を洗ってから深い眠りに落ちた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

翌朝、レイの言葉が頭の中で鳴り響いていた。

『お願いがあるんです。街の外、東側にある岩場へ来てください……』

「考えておく」とは言ったものの、気づけば俺は朝日が昇り始めたばかりの街の門をくぐっていた。結局のところ、慎重さよりも好奇心が勝ったのだ。なぜ子供があんな場所に俺を呼び出したのか、確かめたかった。それに、ガキ一人が俺のような男の脅威になるとは思えなかった。

しばらく歩くと、指定された岩場が見えてきた。だが、そこにいたのはレイ一人ではなかった。

「来てくれてありがとうございます、ケンジさん」

「おい、レイ……これはどういう意味だ?」

俺は彼を問い詰めた。一人だと思っていたのに、そこにはあと五人の子供たちが待ち構えていたのだ。

「紹介させてください」

レイは俺の不機嫌な声を完全に無視して言った。このガキ、俺を無視するとはいい度胸だ。

「こいつはビップ、彼女はリラ、こっちはガル、彼女はタニア、そして最後がウリです」

レイが一人ずつ指し示した。全員が亜人だった。ビップは狼、リラは金髪の狐の少女、ガルは熊の種族のようで、タニアは小さな兎の少女、そしてウリは猫の少年。レイという犬の少年を含めて、全部で六人。どいつも十歳を超えていない。一番小さいタニアは、六、七歳といったところだろう。

子供たちは恐怖と疑念が混ざったような目で俺を見ていた。俺も同じような視線を返した。一体、何の冗談だ、これは。

「みんなに紹介するよ。この人が、僕を助けてくれた人間、ケンジさんだ」

レイが誇らしげに宣言した。

「えっ? こいつが助けたの?」一人が声を上げた。

「人間が? まさか!」別のガキが続く。

「……ブサイク」誰かが小声で毒づいた。

「おい、それを俺の目の前でもう一度言ってみろ!」

最後の言葉に俺は即座に反応した。

「……俺に何の用だ、ガキども。俺が帰る前にさっさと吐け」

俺が吐き捨てると、タニアという少女が俺の剣幕に肩を震わせた。怖がらせるつもりはなかったが、俺はもう我慢の限界だった。

レイは大きく息を吸い込み、爆弾を投げつけた。

「お願いしたいことというのは……僕たちを冒険者として鍛えてほしいんです。お願いします!」

「はぁっ……!?」

子供たちも、そして俺自身も、ほぼ全員が呆気にとられた顔をした。遠くから誰かがこの光景を見ていたら、さぞ滑稽だっただろう。

「断る。お前らと関わって厄介事に巻き込まれるのは御免だ」

俺は背を向けた。

「おい、レイ、もういいだろ。人間に助けてもらう必要なんてない」猫の少年のウリが唸るように言った。

「でもウリ、これは僕たちが強くなって、この国を出るチャンスなんだ!」レイが必死に食い下がる。

「でも、レイ……この人に助けてもらうの?」タニアが不安げに呟く。

「タダで鍛えてくれるとは思えないわね」狐のリラが現実的なことを言った。「人間はみんな強欲なんだから」

「ガル、この人はいい人なんだ! 僕を助けてくれたんだよ!」レイは必死に訴え続けた。

ガキどもの間で言い争いが始まった。俺はただそれを聞きながら、いつから自分の人生がこんなに複雑になったのかと考えていた。子供を鍛える? 面倒で、疲れて、おまけに危険だ。

「それにさ、レイ……こいつのランクは何なんだよ?」ウリが蔑むように聞いた。

「たしか、ブロンズランクだったと思う」レイが答えた。

ブロンズは頂点ではないが、コッパー(銅)からは大きな飛躍だ。少しは尊敬されるかと思ったが、それは大きな間違いだった。

「……ブロンズ?」ウリが繰り返した。

「ああ」

「ぷっ……はははは!」

ウリ、ガル、タニア、ビップが爆笑し始めた。黙っていたのはリラだけだ。俺の血管が怒りでピクリと跳ねた。このガキども、よくも笑ってくれたな。

「ブロンズだってさ。あのアホ面をした奴よりランクが高いくせに、こいつに鍛えてもらおうなんて」ウリが嘲笑した。「そんなの、始まる前に死ぬだけだ」

あいつらの言葉は鋭かったが、どうやら俺のランクを、彼らが知っている別の人間と比較しているようだった。

「やめるんだ、みんな!」レイが叫び、全員を黙らせた。「これは僕たちのチャンスなんだ。無駄にしないでくれ。お願いだ……僕を信じて」

レイの決意は立派なものだった。他の五人を黙らせるほどに。だが、俺は依然としてこの重荷を背負いたくはなかった。俺が何を教えられるというのだ。

「ケンジ様、どうか……僕たちを鍛えてください」レイは深く頭を下げ、懇願した。「今は何も差し出せるものはありません。将来必ず、この恩はお返しすると誓います」

彼の言葉に、俺は言葉を失った。子供の体に大人が入っているかのような、過酷な経験を経て成熟した者のようだった。自分たちの仲間のために頭を下げるその姿に、俺はかつての自分自身の姿を重ねずにはいられなかった。

俺は長く、重いため息をつき、目の前の現実に降参した。

「……分かった。引き受けよう」

俺は結局、その六人を鍛えることにした。将来、この恩を返してもらうという考えを持って。

結局、俺は彼らの師匠になったのだ。

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