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食人惑星

作者: 清水進ノ介

食人惑星


 男は途方に暮れていた。乗っていた宇宙船が、隕石にぶつかり、見知らぬ星に墜落してしまったのだ。男は惑星から惑星へと荷物を届ける、宇宙の運送屋をしていた。その最中の不運な事故だった。宇宙船は煙を吐き出し、動かす事は不可能だ。しかし幸運なことに、積んでいる予備のパーツを使えば、時間はかかるが修理出来そうだ。男は落ち込んでいる場合ではないと、それまでの時間を生き延びる為に、行動を開始した。


 男は積み荷の中に食料がないかと探してみたが、残念なことに見つからなかった。その代わりにナイフやロープが出てきたので、これらを使って、現地で食料を見つけ出すことにした。飲まず食わずでは、一週間も体はもたないだろう。幸いなことに、この惑星の大気には毒が無く、生身のまま外に出ても平気だった。どこまでも広がる草原と、青い空に白い雲。自分が絶体絶命の状況に置かれていることを忘れてしまいそうな、のどかで平和な惑星だった。


 男がしばらく歩いていると、赤い果実が生る大木を見つけた。数え切れないほどの果実が、宝石のようにキラキラと輝いている。男は枝にロープを引っかけ、木を登っていくと、果実を一つもぎ取り、恐る恐る口にしてみた。もしかすると毒が含まれているかもしれないと警戒したが、そんなことはなく、体に害は無いようだった。リンゴのようにシャクシャクとした食感で、モモのように果汁が溢れる絶品だ。男は両手に一杯の果実を抱え、宇宙船へと戻り、その中で夜を過ごした。


 男は宇宙船を修理しながら、なんとしてもこの惑星から脱出せねばと決意を固めた。なぜなら男には夢があったからだ。「多大な財産を築き上げ、南の島で悠々自適、のんびりと余生を送ること」だ。宇宙の運送屋は危険な仕事であり、その見返りに報酬が高い。一般的なサラリーマンの年収を、半月で稼げるほどだ。そのリスクに今回のような事故に遭うこともあるし、宇宙の強盗や、気性の荒い宇宙生物もいる。九割以上の人間が、仕事の最中に命を失うことになる、ハイリスクハイリターンな仕事なのだ。

「あと一年だ。あと一年働けば、もう稼ぎは十分なんだ。こんな所で死ぬわけにはいかない」

 男は自分に言い聞かせるようにそう言って、眠りについた。


 それから一週間が経ち、男はぼうっと空を見上げていた。宇宙船の修理はほぼ終わり、焦ることもなくなった。今日も快晴で、心地よい風が吹き抜ける。一つ懸念点があるとすれば、赤い果実をもう、ほとんど採り尽くしてしまったことくらいだ。男はたいして危機感を持つこともなく、別の木を探しに行けばいいや、くらいに考えていた。男はあくびをして原っぱの上に寝そべり、無意識にこうつぶやいた。

「もう、ずっとこのままで、いいのではないかなぁ」

 男はそう口にしてから、はっとした表情になった。その通りではないか。自分が夢にしていた、のんびりとした悠々自適な生活が、ここで送れているではないか。それに気付いた瞬間、男はスパナを乱暴に振るい、宇宙船を壊し始めた。この惑星から外に出ようなんて、そんなことを考えていた自分が愚かだった。この惑星を終の棲家にするのだ。ここが夢みた楽園なのだ。


 その数日後、男の姿はもう、どこにもなかった。彼がどこに行ったのかは、誰も知らない。今日も何一つ変わることなく、青い空に白い雲がたなびく。唯一変わった事といえば、男が採り尽くしてしまったはずの赤い果実が、今は元通り、無数に実っていた。


おわり

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