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「おい、避けるのは止めろよ」

 廊下で榊原に肩を掴まれ、俺は仕方なく振り向く。

 教室の窓から乗り出してこちらを見ている吉川と真朱の姿が目に入り、覚悟を決めた。

「別に避けてねぇよ」

「嘘つけ。あからさまだろうが。真朱も反省してるし、許してやれよ」

「もう気にしてねぇよ」

「じゃあ、なんでそんなによそよそしいんだよ。昼時間もどこか消えちまうし、帰りもさっさと帰るしよ」

 俺はすぅと息を吸い込むと、準備してあった言葉を告げた。

「あー悪ぃ、俺さ、実は彼女が出来たんだよね。他校なんだけど」

「えええええっ、嘘だろお前マジかやばしねくそがっ」

 緊張のあまり少し声が裏返ってしまったが、幸いにも榊原はそれどころじゃないようだ。

「はわわわわわ……雄星に彼女、彼女」

 棒立ちになり震える榊原を飛び越えて吉川の声が届く。

「やったじゃん雄星。おめでとう」

「マジか、マジかよお前。いや、正直複雑だわ、俺は」

 動揺する榊原の背後に真朱が見えた。真朱は黙ってこちらに視線を向けている。

「休み時間毎に通話してるし、帰りは待ち合わせて一緒に帰ってるんだよね」

「極端なデレだなおい。ちょっと気持ち悪いぞ」

「でも……突然だな。特に彼女とか欲しそうに見えなかったのに」

 吉川の疑問に、俺は照れくさそうな演技で答える。ちなみにこれも鏡の前で練習済である。

「中学んときからずっと好きだった子でさ。この間、電車の中で偶然再会して、なんとなくそんな感じになった」

「なんだよ、好きな子がいたのかよ!」

 良かったなぁ! と言いながら肩を抱く榊原は涙目だったが笑顔に嘘はなく、罪悪感で胸がシクシクと痛んだ。

「いーけど、たまには俺たちとも遊べよ」

「わかったよ」

 俺は一刻も早くここから立ち去りたく、そそくさと背中を向けた。

 そろそろ顔が引き攣りそうだ。いまだにひと言も話さない真朱の視線も怖い。

 しかしそこで、満を持したかのように真朱が口を開き、俺を引き止めた。

「彼女の写真ないの?見せてよ」

 要求する声に微かな棘を感じ、俺は嫌な汗をかく。少し震える指でポケットからスマホを取り出し、準備してあった画像を表示した。

 榊原に渡せば、奴は俺のスマホを手に真朱と吉川の元へ走り寄る。三人はスマホの画面を食い入るように覗き込んだ。

「むっちゃ可愛い」

「雄星って、こーゆータイプが好きなんだ。意外」

 俺は三人に気取られないよう、安堵の息を吐く。

 興奮気味で感想を口にする二人の隣で、真朱は喜怒哀楽のどれも当てはまらない表情を浮かべている。

 ……大丈夫。今のところ疑われる要素はないはずだ。

 俺は己に言い聞かせた。

「そろそろ返せ。電車に間に合わねぇから」

 榊原の手からスマホを取り戻しポケットにしまうと、俺は今度こそ退散しようと手を振り上げる。

「じゃあな。そういうわけで今日も先に帰るから」

 去り際、真朱が泣きそうに顔を歪ませたのが目の端をかすめた。

 そのあまりに意外な表情に鼓動が跳ねる。

 数歩歩いて振り返れば、吉川と小突き合う真朱が見えた。その顔面はいつもの屈託のない笑みで覆われている。

 ――気のせいか。

 俺に彼女ができて真朱が悲しむ理由がない。むしろ、ホッとしたに違いないのだ。

 俺は鼻を鳴らすと、誰と待ち合わせるでもない電車に乗るため、駅へと歩き出した。

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