第9球 レーンの町
次の日の朝、再びレーンの町に向かって出発する。そして、昼頃には町に到着した。
レーンの町は、城壁に囲まれており。門の前には、槍を持った兵士が立っている。思ったより厳重な警備だ。
町の規模は、最初のラオの村とは比較にならないほど大きなものだった。
エルダは、門番の兵士に話しかけて、冒険者であることを告げると。兵士は、あごでクイッと示して通るように促した。
通行許可証とかは必要ないようだ。思ったよりセキュリティはゆるい。エルダの話だと、よっぽどの不審者じゃない限り通してもらえるのだとか。
町の中は、洋風の建物が建ち並んでおり。人通りも多い。想像より、ずっと立派な町だった。
「冒険者ギルドは、こっちだよ」
エルダの案内で、町の中を進む。一人だと絶対に迷子になっていたであろう。
往来で、獣の耳と尻尾が生えている人とすれ違う。明らかに普通の人間と異なる種族だ。ここが異世界であることを強く実感させた。
やがて、立派な造りの建物の前に到着する。
「ここが冒険者ギルドだ。さあ、中に入ろう」
建物の中も広く、革鎧を着た戦士風の集団がいる。俺たちは、奥にあるカウンターへと向かった。カウンターには女性が1人立っている。若くて愛想の良さそうなお姉さんだ。
「いらっしゃいませ。何かご用ですか?」
お姉さんが声をかけてくる。エルダが俺を指さして言った。
「こいつを新しく冒険者に登録したいんだ。いいかい?」
「冒険者の新規登録ですね。お名前を伺ってよろしいですか?」
名前を尋ねられたので答える。
「球太です」
苗字は省略して、下の名前だけ伝えた。
「キュータ様ですね。では、登録料として銀貨1枚をいただきます」
登録は有料だった。未だに銀貨1枚の価値は分からないが。決して安い価格ではないと感じた。これで、俺の残りの財産は銀貨4枚だ。
俺から銀貨を受け取ると、受付のお姉さんは何か書類に書き込んでいる。しばらくして、書類を書き終えると。
「はい。これで登録は終了しました。こちらが登録証になります。キュータ様」
もう登録が済んだようだ。思っていたより、ずっと簡単な手続きだった。名前を言って、お金を払っただけだ。
受付のお姉さんから登録証を手渡される。
「大事なものなので、無くさないでくださいね。他にご用はありますか?」
「ああ。魔石の買取りを頼む」
エルダは、カウンターの上に魔石の入った袋を置いた。サボテン人間を倒した時に拾った魔石だ。あと、昨日のダークウルフの分もある。
魔石の換金が終わると、俺たちはギルドの建物から出た。
「じゃあ、次は私の使っている宿屋に案内するよ。安くて食事も美味い、良い宿だ。そこで夕飯まで休憩にしよう。お前さんも今日は疲れただろ」
エルダが使っている宿屋に案内してもらう。冒険者ギルドから、そう遠い距離ではなかった。通りを二つ過ぎて、落ち着いた雰囲気の通りに出る。そこに質素な宿屋があった。
宿泊の手続きを済ませると部屋に案内される。4畳ほどの小さな部屋で、ベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だ。
「夕食の時間になったら呼びに来るから、それまで休んでおきな」
そう言うとエルダは去って行った。久しぶりの1人の時間だ。とりあえず、俺はベッドの上に転がった。
異世界に転生して10日以上経ったが。ようやく新しい生活の目処が立とうとしている。この町で冒険者として暮らしていくのだ。
せっかくなので町の中を見物して回りたいが、それは明日でもいいだろう。エルダに言われたとおり、夕飯の時間まで休もうと思った。
「待てよ…… その前に。ステータス・オープン!」
その言葉を口にすると、目の前にステータス画面のパネルが現れる。
名前:キュータ
ジョブ:投石士
レベル:3
タイプ:右投右打
HP:30
MP:18
スキル①:投石
球速:145km
コントロール:B
スタミナ:D
変化球:D
スキル②:ツーシーム
スキル③:石精製魔法(レベル1)
スキル④:生活魔法(レベル1)(種火、水)
スキル⑤:鑑定(レベル1)
せっかくの1人の時間なので、ステータス画面を確認する。サボテン人間を倒した時のスキルポイントがまだ余っていた。スキルの強化をしておこう。
「投石スキル以外のスキルも上げておこうか……」
試しに、石精製魔法のスキルをレベルアップできるか見てみる。新たなパネルが現れて、情報が表示される。
『石精製魔法 レベル1→2 爆裂石を新たに精製可能』
爆裂石? なかなか物騒な名前だ。しかし、威力はありそうである。
「よし! 今回は、石精製魔法のレベルを上げよう!」
ステータスパネルを操作して、石精製魔法のレベルをアップさせる。これで、スキルポイントはほとんど無くなった。
今後、余裕があれば生活魔法や鑑定のレベルも上げてみよう。
ステータスパネルを閉じると、俺はそのまま眠りについた。
それから数時間後、ドアをノックする音で目を覚ます。ドアを開けるとエルダが立っていた。
「そろそろ夕飯の時間だよ。ゆっくり休めたかい?」
「ああ。よく眠れたよ」
宿屋は2階が客室になっていて、1階に食堂がある。俺たちは、食堂へ向かった。そこで、料理や酒を注文する。
「明日は、私は冒険者ギルドに行って仕事を探して来ようと思う。あんたは、どうする? キュータ」
「そうだな…… せっかくだから、この町を見て回りたい」
「OK。じゃあ、明日はお互い自由行動にしよう。また、夕飯の時にここで合流だ。それで、いいかい?」
俺は「ああ」と頷いた。
初めて巡る異世界の町。今から探検するのが楽しみである。