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第7球 パーティー

 俺も木製のジョッキに口をつけてエールを飲む。エールは、ビールに近いお酒だった。喉にシュワシュワと炭酸が感じられて心地よい。


「ぷはッ! 美味い!」


 思わず声が漏れる。冷えたビールが好きだが、常温のエールも悪くない。異世界に転生してから約10日。久しぶりのアルコールは格別の味だった。


「お、いい飲みっぷりじゃないか。どんどん飲みな。私のおごりだからね」


「はい! いただきます!」


 俺は、酒を飲むのは好きな方だった。転生する前は、草野球の試合の後は必ず飲み会だった。野球の後に飲むビールが美味いんだ、これが。


 今日もサボテン人間退治という一仕事の後のせいか、お酒が美味しく感じられる。


「ところで、キュータ。私は、お前さんに謝らなきゃならない……」


 急にエルダが神妙な顔つきになると、改まった態度になる。俺は、少し驚いて聞き返した。


「謝るって…… 急にどうしたんですか? エルダさん」


「私は、お前さんと初めて会った時…… 投石士は、遠くから石を投げるしかできない卑怯者だと馬鹿にした。今思えば、それは間違いだった。すまない! キュータ。許しておくれ!」


 そう言うとエルダは、頭を下げた。俺は、慌てて手を振った。


「そんな…… 頭を上げてください。エルダさん。実際、俺は遠くから石を投げるしか能のない男です。気にしてないッスよ」


 その声を聞いてエルダはゆっくりと頭を上げる。だが、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。


「いや、実際。あんたの投石の腕は大したもんだよ。サボテン人間を一撃で倒したんだ。あんたがいなかったら、私も無傷で済んだか怪しいもんだったよ……」


「あれは、エルダさんが敵を引きつけてくれたからできたんです。俺1人だったら、あれだけの数を相手にするのは無理でした。エルダさんがいたから倒せたんですよ」


 ちょっと、しんみりしたところで、テーブルの上に料理が運ばれてくる。ローストチキンみたいな食べ物もあって美味そうだ。


「さあ、冷めないうちに食べよう」


「そうですね。いただきます!」


 俺とエルダは、しばらく料理と酒を楽しんだ。やがて、料理を食べ終わると、少し落ち着いた雰囲気になる。


「私は、レーンの町で冒険者をしている。本当は、もう一人仲間がいたんだ。今回のサボテン人間退治もそいつと一緒にするはずだったんだけどね……」


 エルダが、エールを飲みながら話す。俺は、それに耳を傾けた。


「ここに来る途中で、その仲間とは喧嘩して別れちまったんだ。村長の前では大きな口を叩いたが、私もまだ駆け出しの冒険者でね。1人で10匹のサボテン人間と戦うのは正直きつかった。キュータ。あんたがいてくれて、すごく助かったよ」


 エルダにしては、しおらしい態度だ。酒に酔っているのか、頬が少し紅潮している。何というか色っぽく感じられた。セクシーだ。


 思えば、女性と2人で食事をするなんて、前の世界でもほとんどない経験だ。気の強そうな顔をしているが、エルダはけっこうな美女である。そう考えると胸がドキドキしてきた。


「キュータ……」


 気がつくと、エルダがジッと俺の目を見つめている。視線のレーザービーム。そして、少し恥じらうような態度でエルダは口を開いた。


「キュータ…… お前さん、私とパーティーを組まないかい?」


「えッ!? パーティーですか?」


 パーティーと言っても何かを祝う訳ではない。この場合のパーティーは、冒険者の仲間を意味する。予想外のエルダの発言に、俺は戸惑いを隠せない。


「お、俺は遠くから石を投げることしかできない投石士ですよ? それでもいいんですか?」


「ああ。後ろから石を投げてくれるだけで充分だ。前の敵は、私が相手をする」


 俺は、少し考えた。


 どのみち、今後は町にある冒険者ギルドを訪ねようと思っていたところだ。しかし、この世界は俺にとってまだまだ分からないことだらけである。


 エルダと組むのは悪いことではなかった。いや、何かとメリットの方が大きい気がする。


「分かりました。俺でよければ…… パーティーを組みましょう! エルダさん」


「エルダでいいよ。呼び捨てにしておくれ。そうと決まれば、もう一度乾杯だ。2人のパーティー結成を祝って!」


 俺とエルダは、エールの入った木製のジョッキで、改めて乾杯をする。


「これからよろしくな! キュータ!」


「こちらこそ、よろしくお願いします! エルダさん…… いや、エルダ!」


 こうして、俺と女戦士エルダは仲間になった。最初は、恐い女性としか思えなかったエルダだが。こうして話してみると、意外にも話しやすくていいやつだった。


「ところで、パーティー結成したのは良いとして、これからどうするんだ? エルダ」


 最初の方針をエルダに尋ねる。俺は、まだこの世界のことを右も左も分からないのだ。


「ああ。まずは、レーンの町の冒険者ギルドに行こう。そこで、お前さんにギルドに登録してもらう。それから、2人でこなせそうな仕事を見つけることにしよう」


 冒険者になるためには、冒険者ギルドに登録する必要があるらしい。ギルドというのは、組合のようなもので。登録した冒険者には、仕事を斡旋してくれるのだとか。


「レーンの町は、この村から西に1日ちょっと歩いた所にある。明日の朝には、ここを出発しよう」


 当然のことながら、電車やバスはこの異世界には無い。移動は徒歩だ。まあ、俺は既に転生してから10日近く森の中を歩いている。1日くらいは今さら大した距離ではない。


 他にもエルダと色々話しているうちに、夜は更けていった。



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