第4球 初仕事
そして、俺は村へとたどり着いた。小さな農村のようである。
洋風の家屋が並んでいて、ここが異世界であることを実感させる。
「よかった……」
これでモンスターに怯えながら、ビクビクと森の中で眠る必要もない。久しぶりに宿屋のベッドの布団の上で、ぐっすりと眠れる。
食事も焼いたボア肉とキノコ以外の物が食べられる。お酒も飲めるかもしれない。そう考えるとワクワクしてきた。ちょっとした小旅行の気分だ。
しかし、すぐに思いとどまる。
「待てよ…… 俺、金持ってねえな……」
そう、今の俺の持ち物は、葉っぱにくるんだボア肉とキノコが少々。お金はもちろん金目の物すら持っていない。さすがに無料で食事や宿泊はさせてくれないだろう。
「うーむ。どうしたものか……」
困って頭を悩ませていると、突然背後から声をかけられた。
「やあ。あんた。ここらじゃ見ない顔だねえ。何者だい?」
振り返ると農民風のおじさんだ。俺を不審人物と思ったのか、怪しむような目で見てくる。俺は、すぐに返事をした。
「いえ。怪しい者ではありません。ただの旅人です」
「旅人だって? それにしちゃあえらい軽装だねえ。そんな格好で旅なんかできるのかい?」
おじさんの増々怪しむ目つき。言われてハッと気がつく。今の俺の格好は、粗末な布の服。ちょっとその辺を散歩してくるみたいな恰好で、とても旅人には見えない。
しまった。どうしよう…… そう思った時。農民風のおじさんが言った。
「もしかして、あんた。盗賊にやられたのかい?」
盗賊? そんな物騒な連中がこの世界にはいるのか。しかし、その設定は悪くない。俺は、その言葉に頷いた。
「ええ。そうなんです! 盗賊に襲われまして! 荷物もお金もみんな取られてしまって…… それで困っているんです!」
これなら自然とお金を持っていないアピールができるし。ひょっとしたら助けてもらえるかもしれない。
農民のおじさんは、怪しむ目から同情するような顔つきに変わった。きっと根は良い人なのだろう。
「そうか。それは大変だったねえ。それなら村長と話してみるといい。何か力になってあげられるかもしれん」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
農民のおじさんは親切に、村長の家まで案内してくれた。そして、俺は村長に会うことになった。
村長は、60代くらいの男性だった。家の中のテーブルがある部屋に通される。そこに向かい合って座った。
「わしがこのラオの村の村長じゃ。お前さんは?」
「俺の名前は、球太です」
「キュータ? 変わった名前じゃのう。どこから来たのじゃ?」
村長に質問されて、さっそく困る。俺は、この世界の地理をまったく知らない。どこから来たかと聞かれても答える事ができない。まさか、異世界から来たと言う訳にもいかないし。
「えっと…… 実は、盗賊に襲われた時のショックで記憶も失ってしまったんです。自分の名前は憶えていたんですけど。どこに住んでいたとかは憶えてないんです」
ちょっと苦しい言い訳だが。何とか誤魔化すしかない。村長は「ふむ」と頷くと。
「なるほど…… ところで、お前さんの職業は何かね?」
村長が俺のジョブを尋ねてきた。ここは正直に答えるべきだろう。
「はい。俺のジョブは『投石士』です」
俺の返事を聞くと、村長の顔色が少し変わった。
「投石士? ああ…… あの石を投げる。そうか」
そう言って村長はしばらく考え込む。やがて口を開いた。
「まあ、投石士でもいないよりはマシじゃろう。キュータ。お前さん仕事をやってみる気はないか? モンスター退治の仕事じゃ。無論、報酬は出すぞ」
「……モンスター退治ですか?」
報酬がもらえるのは魅力的だが。モンスター退治と聞くと、ちょっと危険な感じがする。少し戸惑った。
「うむ。村の外れに廃墟となった教会がある。そこにサボテン人間というモンスターが住み着いてしまってな。冒険者ギルドに退治を依頼したのじゃが。派遣されたのは戦士が1人だけでな。ちょっと心もとないと思っておったのじゃ」
俺1人で退治しろという話ではないようだ。それならやってみてもいいかもしれない。
この世界で生きていくためには、どっちにしろ金が必要だ。それを稼ぐチャンスを逃す手はない。
「分かりました! その仕事、引き受けましょう!」
「おお、そうか。やってくれるか。じゃあ、さっそく冒険者ギルドから派遣された戦士殿を紹介しよう。ちょっと待っておれ」
しばらくすると、村長は人を連れて来た。その人を見て俺は少し驚く。
戦士と聞いていたので、てっきり男だと思ったのだが。髪の長い美人の女性だった。少し気の強そうな顔をしているが。なかなかの美女だ。
いかにも女戦士といった風貌で、革鎧を着こみ。腰には剣を下げていた。
「紹介しよう。こちらが冒険者ギルドから派遣された戦士。エルダ殿じゃ」
村長が紹介してくれるが、女戦士はムスッとした表情で俺を見ない。
「これは、どういうことだい? 村長。この私がいるのに何でさらに人を雇う必要がある? そんなに私が信用できないって言うのかい?」
女戦士は村長に詰め寄る。気が強そうなのは顔だけじゃないようだ。村長は少しオロオロしながら答えた。
「いえ、もちろんエルダ殿の腕は信用しております。しかし、1人だけでは万が一ということもありますから……」
「サボテン人間の10匹や20匹! 私1人で充分に決まってるだろう! それをよりにもよって、投石士に助っ人を頼むとは…… 遠くから石を投げるだけの卑怯者。何の役に立つっていうんだい!?」
なぜかディスられている俺。初対面なのに随分な言われようである。