第20球 キャッチボール
それから2日後、ようやくシエラの町に到着した。
シエラの町は、小さな港町という感じの町並みで。レーンの町より少し小さいが、通りはなかなか賑わっていた。
魚の干物などが露店で売られており。後で買ってみようかと思う。
「シエラの町は、魚料理が美味しいですわ」
システィーナが嬉しそうな顔で言う。
その日の夜、宿屋でみんなで食事をとった。さすがマイヤ商会の代表が泊まる宿屋だけあって、ちょっと高級な宿屋だ。
夕食には、システィーナが言ったとおり焼き魚や煮魚など、魚料理がテーブルに並べられる。
「美味そうだな……」
並べられた料理は、どれも美味しそうだ。この世界に来てから初めての魚料理だ。
俺もエルダも遠慮なくガツガツと食べる。
元日本人の俺としては、魚の刺身が恋しく感じた。醤油とわさびをつけて食べる刺身は好物なのだ。
さすがに、この世界には生魚を食べる習慣はないらしく。刺身はなかったが。どの魚料理も新鮮で美味しかった。
宿屋での警護は、ドランたち正規の護衛に任せて、俺とエルダは酒を飲む。
そして、満足すると食事を終えて部屋に戻った。
高級な宿屋だけあって、いつもの宿屋より部屋が広い。ベッドもふかふかだ。
「そうだ。ステータス・オープン」
一人になった俺は、ステータスのパネルを開いてチェックする。
「お! レベルが上がっているじゃないか」
名前:キュータ
ジョブ:投石士
レベル:4
タイプ:右投右打
HP:38
MP:22
ブラッディベアやキングダークウルフを倒したことで、俺のレベルは3から4に上がっていた。HPとMPも増えている。特にMPの増加はありがたい。爆裂石を2回精製できるようになっているので、戦力アップだ。
「スキルポイントも溜まっているな。スキルも少し上げておくか」
俺は、ステータスパネルを操作してスキルを上げた。
スキル①:投石
球速:145km → 150km
コントロール:B → A
スタミナ:D → C
変化球:D → C
スキル②:ツーシーム
スキル③:石精製魔法(レベル2)
スキル④:生活魔法(レベル1)(種火、水)
スキル⑤:鑑定(レベル1)
今回は、投石スキルの強化をする。球速は150kmになった。これで、かなりの速球が投げられる。コントロールなども上げておいた。
前の世界ではヘボピッチャーの俺でも、この世界ではプロ野球選手。しかも一流選手並みのステータスだ。まあ、この世界にプロ野球は存在しないのだが。
「これでよし。さあ、寝るか……」
満足すると、ベッドに横になって休んだ。
次の日の朝、システィーナは仕事があるらしく別行動となった。
「護衛は、我々に任せて。キュータ殿たちは町の見物でもしてきてくれ」
ドランにそう言われて、俺とエルダはシエラの町を見て歩くことにした。エルダもシエラの町に来るのは初めてらしく、目を輝かせていた。
「キュータ! あそこの店に入ってみよう!」
エルダに引っ張られて、色々な店を巡る。女の買い物というのは、とても長い。付き合わされるのは、けっこう大変だった。
「そろそろ鎧を新調しようかと思っていたんだよね。あッ! この革鎧いいね。可愛いデザインだよ」
鎧に可愛いとかあるのだろうか。エルダは熱心に革鎧を物色している。他にも剣など武器を見て回る。
ブラッディベアを退治した報酬と、今回の護衛の仕事の前金で、俺たちはまあまあの金を持っている。
「キュータは、何か欲しい物はないのかい?」
「うーん。俺は別にいいかな……」
投石士の俺は、武器を必要としない。身に着けていると投石の邪魔になるからだ。鎧なども身動きがとりにくくなるので着れない。だから、あまり装備を新調する必要が無いのだ。
しかし、たまたま入った雑貨屋でそれを見つけた。
「おッ! ボールがあるじゃないか!」
たぶん、子供が遊ぶ用のおもちゃだろう。革製のボールが売ってあるのを見つけた。手に持ってみると、けっこういい感じだ。ボールだけで、グローブは売っていないが。柔らかいボールなので、素手でキャッチボールができそうだ。
せっかくなので、ボールを1個購入した。
そして、昼食後―――
俺たちは、町の中央にある広場で休む。俺は、さっそく買ったボールを取り出すと、エルダに声をかけた。
「なあ、エルダ。ちょっとキャッチボールをしないか?」
「キャッチボール? 何だいそれは?」
エルダは、キョトンとした顔だ。この世界に野球はないので当然の反応だろう。
「このボールを投げて遊ぶんだ」
「へえ。面白そうだね。いいよ。ちょっと、やってみようか」
俺とエルダは、広場でキャッチボールをする。エルダに、ボールの投げ方を教える。
「あはははは。けっこう楽しいね! キャッチボールというのは」
エルダは、さすがは戦士だ。最初は、ぎこちない投げ方だったが。身体能力が高いので、すぐにまともな投球ができるようになった。けっこう速い球を返してくるし。ボールを取るのも上手かった。
「お兄ちゃんたち。何やってるの?」
俺たちの元に、見知らぬ子供たちがやって来る。キャッチボールに興味津々の様子だ。
「これは、キャッチボールって言うんだ。一緒にやってみるかい?」
「うん! やってみたい!」
俺は、子供たちにもキャッチボールを教えた。子供たちもすぐに覚えて、楽しそうにボールを投げる。
俺とエルダは、いつの間にかキャッチボールをする子供たちを眺めていた。エルダも子供たちを見て楽しそうに笑う。
「これが、キュータの言ってた『ヤキュー』て遊びかい? 楽しいもんだねえ」
キャッチボールをしている子供たちを見ていると、不意にシスティーナの言った言葉を思い出した。
「まずは似たような事。簡単にできる事から始めてみてはいかがでしょう?」
このキャッチボールが、そうなのかもしれない。いきなり本格的な野球をする必要なんてなかった。できることから徐々に始めていけば良いのだ。
「この世界で野球を始める。それもいいかもな……」
キャッチボールをして遊ぶ子供たちを見て、俺はそう思った。




