第2球 異世界プレイボール!
「仕方ない。まずはスキルの強化とやらをするか…… ステータス・オープン!」
目の前にステータス画面のパネルが現れる。そこに触れると色々と操作できることが分かった。
さっき女神からスキルポイント100をもらっている。これを使ってさっそくスキルを強化してみることにした。
スキル①:投石
球速:100km → 140km
コントロール:G → C
スタミナ:G → E
変化球:G → E
「ふむ、こんなものか……」
とりあえずメインとなる投石スキルを強化する。やはり球速は140kmは欲しい。あとはコントロールの精度も上げて。残ったスキルポイントでスタミナと変化球も強化した。
正直、変化球は必要ない気もする。一応、別のスキルで『ツーシーム』が投げられるようだが。野球の試合をするならともかく。この異世界で何の必要があるのだろう?
「さて、これからどうするかな?」
現在、俺がいるのは知らない森の中。このまま、ここでボーッとしていても仕方ない。この世界に村とか町があるのかすら知らないが。とにかく移動しよう。
俺は、森の中をあてもなく歩き始めた。そして、歩いてすぐにある物を発見する。それは木の根元に生えていた。キノコである。
「……これ。食べられるかな?」
もし食用が可であるなら、貴重な食料をゲットできる。しかし、毒キノコの場合もある。うかつに口にするのは大変危険だ。
「ん? そういえば…… 女神から『鑑定』のスキルをもらったっけ。あれで調べてみようか?」
最後の最後に特別サービスだとか言って『鑑定』スキルを与えて消えていった女神。俺のステータスのスキル欄にも確かに『鑑定』(レベル1)が記載されている。
「スキル発動! 鑑定!」
いちいち声を出さないとスキルが使えないのは不便だが。俺は、言葉に出してスキルを発動させた。するとキノコの近くにパネルが表示される。
『名称:フェーリア茸 備考:フェーリア大陸に広く繁殖するキノコ。熱すれば食用可。美味』
「おお! 食べられるのか! それはありがたい!」
さっそく貴重な食料をゲットだぜ! それにしても便利だな。鑑定スキル。これがあれば、とりあえず食べられるキノコに困ることは無さそうだ。
ついでに、ここがフェーリア大陸であるという情報もあった。俺は、本当に異世界に転生してしまったらしい。
キノコを採ってから、また移動を開始する。
森の中は、ずっと同じような景色が続いている。地図も無いし、どこをどう歩いているのかまるで見当がつかない。
「まいったな…… 日が暮れる前に、この森から出たいんだがなあ……」
その時だった。奥の茂みからガサガサと音がする。そして、目の前に何か黒い物が飛び出した。
「うわッ!? 何だ!?」
思わず驚きの声を上げる。それは黒いイノシシのような生き物だった。イノシシに似ているが、牛のような角が生えている。見た事もない生き物だ。
「くそッ! スキル発動! 鑑定!」
俺は落ち着いて鑑定のスキルを発動させる。迷ったり困った時は、まず鑑定だ。イノシシのような生き物についてパネルが開く。
『名称:ワイルドボア 備考:人間を見ると突進してくる凶暴なモンスター』
その説明を見て、思わず声が出る。
「げッ! 最悪だ! モンスターかよ!」
そして、説明どおりワイルドボアは俺に向かって突進して来た。俺はとっさに横に飛んでそれを避ける。
ワイルドボアは、どうやら真っすぐにしか突進できないようだ。しばらく走ると、またこちらへと向きを変えようとする。それが隙となった。攻撃のチャンスだ。
俺は、さっき採ったキノコを投げ捨て、そして叫ぶように言った。
「スキル発動! 石精製魔法!」
左手が青白く光る。そして手のひらには、野球ボールくらいの大きさの石が現れた。
「俺のジョブは投石士だ! なら、ここはこうするしかない!」
ワイルドボアは、突進が勢い余ったのか10メートル先にいる。そして、こちらに向いてまた突進しようとしている。
俺は、野球のピッチャーのようなフォームで持っている石を思いっきり投げた。狙うのはもちろんワイルドボアの頭部。
シュルルルルル…… ドガッ!
時速140kmで繰り出される投石。耳鳴りのような音が響き、そしてワイルドボアの眉間に見事に命中した。
「ブゴォッ!!!!」
ワイルドボアが低いうめき声を上げる。しかし、まだ倒れない。ヨロヨロとしながらも何とか立っている。
「それなら、もう一度…… スキル発動! 石精製魔法!」
このチャンスを逃す訳にはいかない。2度目の石精製魔法のスキルを使用する。左手に石が現れる。
「これで、とどめだッ! くらえーッ!」
そして、再び振りかぶって投石。2個めの投石も見事にワイルボアの頭部に命中した。
「ブゴォッー!?」
ワイルドボアは、悲鳴を上げると地面にバタリと倒れた。そして、光の粒子となって消えていく。その場には、何か肉の塊のような物が取り残された。
俺は、その肉の塊に近づく。そして声に出した。
「スキル発動! 鑑定!」
肉の塊の近くにパネルが表示される。こう書いてある。
『名称:ボア肉 備考:ワイルドボアのドロップアイテム。焼いて食べるのがおすすめ。少し臭みがある』
またしても貴重な食料をゲットだぜ。
この世界では、モンスターを倒すと自動的にアイテムに変換されるようだ。わざわざ解体したりする必要がないようで便利なものだ。
「とりあえず、今日の晩飯には困ることはないな……」
まだ使ったことはないが、俺はスキル『生活魔法』を持っている。その中の『種火』を使えば、火は起こせそうだ。
さっきのキノコとこのワイルドボアの肉を焼いて食うことができる。それだけで、ちょっとした心の余裕ができた気がした。