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第14球 女商人システィーナ

「失礼ですが、システィーナ様に何のご用でしょう? お会いになる約束アポイントメントは?」


 身なりのいい男性店員は、少し高圧的な態度になる。エルダは、イライラし始めた。


「だから、そのシスティーナさんから店に来るように言われたんだってば!」


「システィーナ様は、大変お忙しい方です。約束アポイントメントの無い方とはお会いになりません。おい! こいつらをつまみ出せ!」


 男性店員は、後ろにいる用心棒の戦士風の男に目配せする。俺たちを追い出そうと戦士風の男が動いた。その時だった。


「ちょ、ちょっと! 待ってください! もしかして、冒険者のキュータ様でいらっしゃいますか!?」


 突然、大声を上げて別の男が走って来た。身なりのいい若者だ。俺は、その若者に答えた。


「ああ。俺が、キュータだけど…… 冒険者ギルドから、ここに来るように言われたんだ」


「た、大変失礼いたしました! わたくし、システィーナの秘書を務めております。ダリオと申します! キュータ様のことは、システィーナから伺っております!」


 ダリオと名乗った若者は、手を振って男性店員と用心棒を追い払った。ようやく話の分かる人に会えたようだ。俺は、ホッと安堵する。


「キュータ様とお連れの方。こちらへご案内しますので、どうぞ」


 ダリオに案内されて店の奥に進んだ。そして、豪華な応接間に通される。部屋の中は、豪華な装飾品でいっぱいだ。やや緊張する。


「どうぞ、おかけになってお待ちください。すぐお茶を用意しますので」


 俺たちは、部屋の中央にある高級そうなソファーに腰掛けた。フカフカの柔らかい感触に包まれる。そして、奥からメイドの女性がやって来てお茶を淹れてくれた。


「システィーナを呼んでまいりますので、お茶を飲みながらお待ちください」


 そう言うと、ダリオは小走りに去って行く。俺たちは、お茶の入ったカップに手をつけた。


「ふんふん。高級そうなお茶だねえ。さすがマイヤ商会だよ」


 エルダは、お茶の香りをくんくんと犬みたいに嗅いでいる。俺もお茶をひと口飲んでみた。何とも言えない良い香りがする。


 それから、しばらくして。ようやく、女商人のシスティーナ・マイヤが部屋に現れた。


 シックなドレス姿。金髪の髪に縦ロール。商人というより、お嬢様といった風貌の美女だ。そして、その顔を見てようやく俺は思い出した。


「あッ! あんたは、あの時の……」


 そう、1人でレーンの町を散策した時。朝市で物盗りにバッグを盗まれそうになっていた人だ。


「その時分は、大変お世話になりました。キュータ様。改めて、わたくしシスティーナ・マイヤと申します。このマイヤ商会の代表をさせていただいておりますわ」


 マイヤ商会の代表? そんな偉い人だったのか。人は見かけによらないものだ。


 システィーナは、チラっとエルダの方を見た。


「そちらのお連れの方は……?」


 そう言われて、エルダは立ち上がった。


「キュータの冒険者仲間。エルダです」


「そう。はじめまして、エルダ様」


 システィーナは、優雅にニッコリと笑う。


「キュータ様には、危ないところを助けていただきまして。是非、お礼をしたいと思っていましたの。冒険者ギルドを訪ねたら、ちょうど出かけられていたみたいで。わざわざお呼びたてして、申し訳ありませんでしたわ」


 システィーナは、ペコリとお辞儀をする。俺は手と首を横に振った。


「お礼なんて、別にいいですよ。そんな大したことはしてないし……」


「いいえ。あの時は、大事な商談の前で。バッグの中には大事な書類が入っておりましたの。キュータ様が取り返してくれなかったら、大変な損失になるところでした。改めてお礼を申し上げますわ」


 そういえば、あの時はとても急いでる様子だったな。そんな事情があったのか。


「キュータ様。何かお望みの物はありますか? お金でも品物でも。できる限り用意いたしますわ」


「いや、別にいいですよ。こうして、お礼を言ってくれただけで充分です」


 確かに、人助けはしたが。お金とかもらうのは何か違うと感じた。それが目的で助けた訳でもないし。


「でも…… それでは、わたくしの気がおさまりませんわ。何でも言ってくださいまし。このマイヤ商会にできることでしたら何でもいたしますわ」


「いや…… 本当に大丈夫です」


「何か無いのですか? キュータ様が心から望んでいらっしゃることは……?」


 俺が、心から望んでいること? そう聞かれて、少し考えた。そして、思わず口にする。


「俺が望んでいること…… 野球……」


 野球がしたい。野球が見たい。俺の望みはそれだけだ。


「ヤキュー? ……でございますか?」


 システィーナに聞き返されて、俺はハッとなる。慌てて首を横に振った。


「いや、何でもないです。本当、お礼なんてけっこうですから。大丈夫です!」


「でも、それでは……」


 俺とシスティーナの会話が止まりかけた。その時、エルダが横から入ってきた。


「あのー。キュータの代わりに、私からお願いしてもいいですか?」


 システィーナは、エルダの方を見てニコリと笑う。


「はい。何でしょう? エルダ様」


「私もキュータも冒険者です。ですから、よかったら仕事をもらえませんか? それを謝礼の代わりにさせていただくというのは……?」


 俺は「なるほど」と声を漏らす。それは、良い考えかもしれない。俺たちは仕事がもらえてラッキーだし。システィーナさんもお礼ができて丸く収まる。



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