第13球 マイヤ商会
「うおおおーッ! 死にやがれ! この熊野郎ッ!」
エルダが、ふらついているブラッディベアの喉元に剣を突き立てた。
「グワオオオォォォーッ!」
ブラッディベアは、断末魔の叫びを上げた。黒い巨体は、光の粒子となって溶けていくように消えていく。
「はぁはぁ。やったか?」
肩で息をするエルダ。ブラッディベアを倒したのを確認すると、その場にドサッと座り込んだ。ブラッディベアがいた場所には、ドロップアイテムと思われる毛皮らしきものが残されていた。
「やったな! エルダ。見事だ!」
俺は、エルダの元に駆け寄った。彼女の戦いぶりに称賛の声を送る。エルダは、笑顔で答えた。
「あんたが投石で、やつの右腕を吹っ飛ばしてくれたからさ。五体満足な状態のブラッディベアだったら、とても1対1で戦うなんて無理さ。お前さんのおかげだよ。キュータ」
「いや、俺たち2人の勝利だろ? やれやれ。これでようやく、この臭い牛舎ともおさらばだ」
ブラッディベアを倒して、ホッと一息つく俺をエルダが手で制した。
「待って! キュータ。あそこ!」
エルダが、牛舎の入口付近を指さした。よく見ると小さな影がもぞもぞと動いている。月明かりに照らされたそれは、黒い体に頭部だけが赤い毛並み。そう、ブラッディベアの子熊だった。
「ブラッディベアの子熊……? じゃあ、さっき倒したのは…… 母親だったのか?」
「あいつらも生きるために家畜を襲ったんだろうけど。仕方ないね。こっちも仕事さ。可哀想だけど……」
立ち上がろうとするエルダを俺は片手で制する。
「エルダ。座っていてくれ。俺がやるよ。スキル発動! 石精製魔法!」
俺は、石精製魔法のスキルを発動させて、左手に石を精製する。そして、振りかぶってそれを投げた。ツーシームで、子熊の頭部を狙う。
シュルルルルルル…… ドガッ!
「ギャンッ!」
子熊は、悲鳴を上げてその場に倒れた。そして、光の粒子となって消えていく。その場には、小さな魔石が残された。
この世界のモンスターは、倒すと光の粒子となって消えてしまう。死体は残らない。まるで最初から存在しなかったかのごとく消滅するのだ。
「肉体は消滅する…… ならば、その魂はどこへ行くのだろうな? 同じように消えて無くなるのか……」
俺は、ボソッとつぶやいた。願わくば、子熊の魂は母親の元へ行って欲しいものだ。
こうして、俺たちはブラッディベア退治の仕事を見事に果たしたのだった。
レーンの町に戻ると、さっそく冒険者ギルドに報告をしに行く。報酬も受け取らねばならない。
冒険者ギルドに着くと奥のカウンターに直行した。
「ブラッディベア退治の仕事。お疲れさまでした。こちらが報酬になります」
受付のお姉さんから報酬を受け取る。銀貨50枚だ。2人で山分けすれば1人25枚。悪くない。いや、今まで一番良い稼ぎだ。
「ブラッディベアは、中級パーティーでも苦戦するモンスターですからね。それを2人だけで倒すなんて大したものです。すごいですね!」
受付のお姉さんから褒められた。ちょっと嬉しい。その時、受付のお姉さんが何かに気づいたように言う。
「ああ。そういえば、キュータさんにお客さんがお見えでしたよ。マイヤ商会のシスティーナ・マイヤさんという女性の方です」
「ん? 俺に…… 客?」
言われてみると聞いたことがあるような名前だ。誰だっけ?
俺が首を傾げると、エルダが俺の肩を突いた。
「キュータ! マイヤ商会っていえば、この辺じゃ知らない者はいない大商家だよ。しかも、そのシスティーナと言えば、やり手の女商人としてさらに有名だ」
「そんな有名人が俺に何の用だろう……?」
受付のお姉さんが、俺に言う。
「とりあえず、キュータさんが戻られたら、マイヤ商会に来て欲しいそうです」
「うーん。急に来てくれと言われてもな…… こっちも仕事が終わったばかりで疲れているし……」
俺は、渋い顔をした。しかし、後ろにいるエルダが再び俺の肩を小突く。
「何言ってるんだい! キュータ。マイヤ商会にコネを作るチャンスだよ。商人と仲良くしとくと何かと便利なんだ。会いに行こうよ!」
「そうなのか? ……分かったよ。じゃあ、行ってみるか」
俺たちは、冒険者ギルドを出るとマイヤ商会に向かった。マイヤ商会の場所は、エルダが知っていた。この町の1番のメインストリートに店をかまえている。
マイヤ商会の建物は、すごく立派な造りだった。予想以上に豪華な店がまえに俺は驚いた。貴族みたいな身なりのいい人たちが出入りしていて、俺たちみたいな下っ端冒険者は明らかに場違いだ。
「なあ? エルダ。本当に入るのか? なんか場違いじゃないか?」
「何言ってるんだい! 向こうが来てくれてって言ったから来てやってるんだ。怖気づいてるんじゃないよ! 行くよ!」
エルダが俺を引っ張って店の中に入っていく。店の中に入ると、身なりのいい男性店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。マイヤ商会にようこそ。お客様…… 当店に何のご用でしょうか?」
明らかに不審そうな目で俺たちを見ている。しかし、エルダは怯まずに前に出る。
「システィーナ・マイヤさんに呼ばれて来たのさ。キュータが来たって伝えておくれ!」
「キュータ……? はあ。少々お待ちください」
男性店員は、まだ俺たちを不審そうな目で見ている。店の奥から用心棒と思われる戦士風の男も出てくる。辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。




