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第12球 ナイター(真夜中の激闘)

 俺たちは、牛舎の奥に身をひそめていた。壊された入口の付近は、月明かりが差し込み明るいが。奥の方は暗闇に包まれている。


 牛舎の中は、牛や糞の臭いでむせ返るようだ。この中で、ブラッディベアが来るまで待っているのかと思うと、気が遠くなりそうだった。


 しかし、エルダの方は楽しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべている。俺は思わず尋ねた。


「楽しそうだな。エルダ。何がそんなに面白いんだ?」


「何って。だって、ドキドキするじゃないか。まるで、初恋の頃。好きな人を待ってる乙女のような気分だよ。うふふふふ」


 エルダさんには少々、ストーカー気質があるようだ。少し歪んだ感性をしていらっしゃる。


「乙女ねえ……」


「何だい? 可笑しいかい? 私にだって、そういう時代はあったんだよ! 花も恥じらう乙女の時代がさ!」


 そういえば、エルダの年齢は知らないが。見た感じ20歳か、そこらのはずだ。まだ乙女の時代から、そうは経っていないはずだが。


「そういうお前さんは、どうなんだい? キュータ。何か浮いた話の一つや二つなかったのかい?」


「俺か……?」


 突然、エルダは俺に話題を振ってきた。この臭い牛舎の中で恋バナですか? 修学旅行じゃあるまいし。


 前の世界で35歳まで生きてきたが、恋人いない歴も35年の悲しい人生でした。


「ふッ…… 俺の恋人は野球だけさ」


 俺は、鼻で笑って答える。小さい頃から好きだったのは野球だけだ。青春時代も野球に全てを費やした。そして、大人になっても草野球として続けていた。


「ヤキュー? 変わった名前の元カノだね。キュータにヤキュー…… ふふふ。何だか語呂がいいね」


 エルダは、何が面白いのか知らないが笑っている。この世界には、やはり野球は存在しないのだ。俺にとっては残酷な真実だ。


「はぁ。野球がしてえなあ……」


 俺がそうため息をついた瞬間だった。エルダが「シッ!」と口元に人差し指を立てる。静かにしろというジェスチャーだ。


 見ると牛舎の壊された入口の近くに、黒い巨大な影がもぞもぞと動いている。そして、次の瞬間。月明かりに、そいつの顔が照らされる。頭部だけが赤色の毛並みの熊。間違いない。ブラッディベアだ。


「待ち人来たるってね。静かに…… キュータ。もう少し中に入るまで引きつけるよ」


 ブラッディベアは、入り口付近でもぞもぞと動き。なかなか牛舎の奥には入ってこない。相当、警戒心が強いのだろう。もしかしたら、俺たちの臭いに気づいたのかもしれない。


 さすがの俺もドキドキしてきた。エルダの言う好きな人を待つドキドキ感っていうのも分からなくはない気分だ。


 やがて、ブラッディベアは確認が終わったのか牛舎の奥へと進んで来る。


「よし! 今だよ! キュータ!」


「ああ!」


 エルダの合図で、俺は隠れていた飼葉かいばの陰から飛び出した。そして、スキルを発動させる。


「スキル発動! 石精製魔法! 爆裂石を精製!」


 左手に光の粒子が集まってくる。そして、丸い石となる。見た目は普通の石だが、当たれば手榴弾なみの威力がある爆裂石だ。


「行くぞ! ブラッディベア! 喰らえッ!」


 俺の声に反応して、ブラッディベアはこちらを振り向いた。


 俺は投球モーションに移る。流れるような動作で、ブラッディベアの頭部を狙って爆裂石を投げる。ストレートの軌道で投げた。時速145㎞で射出される爆裂石。


 シュルルルルルル…… ドッガァーン!


 眩い閃光と爆裂音。爆裂石は、ブラッディベアの頭部に命中……


「いや、頭には当たっていない!? まさか、腕で防いだのか!?」


 俺は驚いて声を上げる。ブラッディベアの頭部は無傷だった。代わりに右腕の先が吹っ飛び。血がポタポタと地面に垂れている。


 何という反応速度。ブラッディベアは、145㎞で飛んでくる爆裂石を咄嗟に右腕で防御ガードして、頭部を守ったのだ。


「グオオオオオォォォォーッ!」


 ブラッディベアは、怒りの咆哮を上げながら2本足で立ち上がる。体長はゆうに2メートルを超える。その大きさと迫力に、俺は圧倒された。


「くそッ! 仕留めそこなった!」


「右腕を吹き飛ばしただけでも上等だよ! 今度は、私の番だ! 行くよッ!」


 エルダは腰から剣を抜くと、ブラッディベアに向かって突撃していく。そして、その巨体に果敢に斬りかかっていった。


 ブラッディベアの鋭い爪と牙。しかし、右腕が失われたことにより攻撃が弱くなっている。エルダは、ほぼ互角に戦っていた。


「よし。援護するぞ! エルダ!」


 MPの残りは少ない。爆裂石は、もう精製できないが。普通の石なら、あと7回は精製できる。


「スキル発動! 石精製魔法!」


 左手に粒子が集まり、丸い石の形になる。今度は、丸いだけの普通の石だ。


「今度こそ! 脳天に直撃させてやるぜ! 喰らえッ!」


 俺は、再び石を投げた。今度は、ストレートではなくツーシーム。変化球の軌道で投げる。球速は、さっきより落ちる。


 シュルルルルルル…… ドガァッ!!


 石は、ブラッディベアに当たる直前に左に小さくシュート回転した。そして、見事ブラッディベアの眉間に命中した。


「グワァオオオオォォォォー!?」


 ブラッディベアは、悲痛な咆哮を上げる。しかし、まだ倒れない。フラフラとふらついているが、まだ何とか立っている。


「最近じゃー、動物愛護団体がよー。熊を殺すなってうるさいらしいが。俺の考えは違うぜ。人間に害を為す熊は、殺さねえといけねえ! 悪く思うなよ。俺たちだって生きていくためだ!」


 フラフラと立っているブラッディベアに憐れみを感じた。だが、こいつはただの熊とは違う。人間や家畜を襲うモンスターだ。討伐すべき対象であり、倒さねばならない相手なんだ。



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