第11球 赤兜(あかかぶと)
ブラッディベア。体の色は黒いが、頭部だけまるで血塗られたように赤色の熊。別名『クリムゾンヘッドベア』とも呼ばれるモンスター。
性格は獰猛だが、警戒心が非常に強く。滅多に人間と遭遇することはないと言われている。
今回の仕事の依頼は、レーンの町の北にある小さな村の牧場からだ。ブラッディベアが現れて家畜を襲っているらしい。まだ人は襲われていないが。それも時間の問題だ。早急にブラッディベアを退治して欲しいとのことだった。
翌日の朝、俺とエルダはレーンの町を出発して北の村を目指す。
2時間ほど歩くと田園地帯を抜けて、辺りは草原となる。ここまで来ると人の気配はない。俺は、立ち止まるとエルダに声をかける。
「エルダ。ちょっといいか? 試してみたいことがあるんだ」
エルダは、不思議そうな顔で俺を見た。
「試したいこと? 何だい? 急に……」
およそ18メートル離れた所に1本の木が生えている。そこそこ太い幹の木だ。的にするには丁度いい。俺は荷物を降ろすと、木の方に向かって立った。
「まあ見ていてくれ…… スキル発動! 石精製魔法! 爆裂石を精製!」
そう、俺が試したかったのは爆裂石だ。石精製魔法のスキルレベルを上げたことで、新たに精製できるようになった石。ブラッディベアと戦う前に是非とも試しておきたかった。
俺がスキルの発動を宣言すると、左手に光の粒子が集まってくる。そして、丸い石となった。見た目は、いつも精製している普通の石と変わらない。
セットポジションに入ると、流れるような投球フォームで木に向かって石を投げる。変化球ではなく、ストレートで投げた。時速145㎞の投石が繰り出される。
シュルルルルルル……
回転音が響き、石は木に命中した。その瞬間。
ドッガァーンッ!!!!
眩い閃光とともに強烈な爆発音。
「うわッ!? 何だい! キュータ。これは……」
後ろにいたエルダが驚いて声を上げる。命中した木は爆発でメキメキと倒れた。わりと太い幹の木だがあっさり折れた。爆発した箇所は黒く焼き焦げている。
「なかなかの威力だな…… 爆裂石。これは使える」
「すごいじゃない! キュータ。投石でこんなことができるなんて! これならブラッディベアなんて楽勝で倒せるじゃないか!」
「ああ…… だが、ちょっと待ってくれ。ステータス・オープン!」
肝心なのはここからだ。俺は、ステータスパネルを開いて自分のステータスを確認する。気になるのはMPの残り。18ポイントあったMPが残り8ポイントになっている。つまり、爆裂石を精製するのにMPを10ポイント使った計算になる。
「やはり、爆裂石を精製するのにかなりのMPを消費するな……」
これでは連発できない。いざという時の奥の手として使うべきだろう。
MPの消費という不安要素はある。だが、強力な武器が手に入ったことには変わりない。爆裂石の実験を終えると、俺たちは再び北の村を目指して歩いた。
村に着いたのは、ちょうど日が暮れそうな頃だった。依頼主のいる牧場を尋ねる。40代くらいのおじさんが依頼主だった。
「冒険者ギルドから来た。私は戦士のエルダ。こっちは投石士のキュータだ」
エルダが自己紹介をすると、依頼主のおじさんは怪訝そうな顔をする。
「はあ。女の戦士に…… 男の方は投石士ですか? あの石を投げる。大丈夫ですか? 相手はブラッディベアですよ?」
明らかに俺たちの実力を疑っている様子だ。だが、エルダは平然として答えた。
「心配いらないよ。人は見かけによらないってね。こう見えても私たちは歴戦の冒険者さ。ブラッディベアなんて屁でもないよ」
これは嘘だ。俺もエルダもまだ駆け出しの冒険者である。だが、おじさんはようやく納得したような顔になる。
「分かりました。ブラッディベアに襲われた牛舎の方に案内します。こちらへどうぞ」
おじさんに案内されて牛舎に向かった。牛舎は木製だが立派な小屋だった。しかし、入口が滅茶苦茶に壊されている。
「入口の扉はブラッディベアに壊されて、この有様です。やつは夜な夜な現れては、わしの大事な牛を殺して食っていく。もう3匹もやられました。このまま食われ続けたら、うちはおしまいだ」
牛舎には、残り7頭の牛がいた。牛といっても俺の知っている牛とちょっと違う。この世界の牛は『フェーリア牛』といって毛がフサフサしている牛だ。
エルダはしゃがんで入口の近くを調べる。そこにはブラッディベアの足跡が残されていた。
「この足跡を見な。キュータ。こいつは、かなりの大物だよ」
フェーリア牛もかなり大きいが、それを襲ったブラッディベアはそれよりも大きいようだ。ワイルドボア、サボテン人間、ダークウルフ。俺が戦ってきたどのモンスターよりも強力な気配がする。
依頼主のおじさんが不安そうな顔で話す。
「ブラッディベアは、この近くの森からやって来るようだ。この村の猟師に頼んで、罠を仕掛けてもらったりしたが…… やつは賢い。罠にはかからないんだ。相当、警戒心が強い」
しゃがんで足跡を調べていたエルダが、サッと立ち上がる。
「なるほど…… じゃあ作戦はひとつしかないね。私たちが、この牛舎に張り込んで。ブラッディベアがやって来たところを迎え撃つ。それでどうだい?」
エルダの作戦は至極当然と言える。だが、牛舎の中は牛の糞などの臭いでかなり臭い。こんな所で熊がやって来るのをジッと待つのかと思うと、うんざりしてきた。
「よし! さっそく今日の夜から張り込むよ! いいね? キュータ」
しかし、エルダ先輩はやる気満々のご様子だ。ここは従うしかない。
「ああ。分かったよ……」
あまり気は乗らないが、エルダが提案したブラッディベア討伐作戦が開始された。




