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第10球 朝市にて

 次の日の朝、朝食を済ませると1人で宿屋を出る。今日は、1人でここレーンの町を散策してみよう。


 異国情緒あふれる街の中を歩いた。気分はすっかり観光旅行だ。異世界だけあって目に映る物全てが新鮮に見えた。


 やがて、人通りが多い通りに出る。どうやら市場のようだ。両脇に所せましと露店が並び、様々な物を売っている。通りは活気に満ちていた。


「おや? これはリンゴかな?」


 果物を売っている露店の前で足を止めた。前の世界でもよく見た果物。赤くてリンゴにそっくりな果物がかごに山盛りに積んである。


「リンゴ? 何言ってるんだい。お客さん! それは、ポラの実だよ! 甘くて美味しいよ! ひとつどうだい? 銅貨1枚だよ」


 露店のおばちゃんが声をかけてきた。この果物はリンゴではなく、ポラの実というらしい。どんな味がするのだろう? 少し興味が湧いたが、先ほど朝食を食べたばかりで腹は減っていない。


 その時だった―――


「キャアアアーッ! 泥棒ッ! ひったくりよ! 誰か、そいつを捕まえてー!」


 突然の女性の叫び声。振り向くと粗末な衣をまとった男が、脇にバッグを抱えて勢いよく走っている。そして、俺の目の前を通り過ぎて行った。


 男にバッグを盗られたのか、身なりのいい若い女性が追いかけようとしている。


「ひったくりか……」


 追いかけようにも男の足は相当速い。俺の足では、とても追いつけそうにない。


「ならば、投石で……」


 男に向かって石を投げようと一瞬思ったが、さすがに人に向かって石を投げるのはためらわれた。投石は、さすがに威力が強すぎる。最悪、殺してしまうかもしれない。その時、俺は良いことを思いついた。


「おばちゃん! このポラの実。1個もらうぜ!」


 俺は、籠に積んであるポラの実を1個取った。そして、かまえるとポラの実を男の頭に狙いを定めて投げる。ツーシームではなく、普通のストレートの軌道で投げた。流れるような投球フォームから、ポラの実が射出される。


 シュルルルルルル…… ポカッ!


 ポラの実は、見事に男の頭に命中した。ポカッと間抜けな音が響く。それでもかなりの衝撃だ。男は転倒してバッグを落した。


 俺は、すぐに駆けつけるが。男は、バッグをあきらめて俺が駆けつける前に逃げ去って行った。バッグを拾うと、持ち主である若い女性が追いついてきた。


「悪いな。泥棒には逃げられてしまった」


 俺は、若い女性にバッグを渡した。


「はぁはぁ。ありがとう。バッグが無事なら十分ですわ」


 若い女性は、息を切らしながら俺からバッグを受け取る。よく見ると、かなりの美人だ。金髪の髪に縦ロール。お嬢様といった風貌の女性である。


「改めてお礼を言いますわ。わたくしは、マイヤ商会のシスティーナ・マイヤ。あなたのお名前を教えてくださる?」


 喋り方も完全にお嬢様だ。俺も名を名乗った。


球太きゅうたと言います。冒険者です」


「キュータ? 素敵な名前ね。バッグを取り返してくれてありがとう。この中には、大事な物が入っていたの。盗られたら大変なことになるところでしたわ。感謝いたしますわ」


「そりゃあ、取り返せてよかった」


「ごめんなさい。わたくし、ちょっと急いでいて。このお礼は後日、必ずいたしますわ」


「いや、大したことはしてないし。礼なんていいよ」


 俺は首を振って答える。しかし、システィーナと名乗った女性は真剣な顔で言った。


「いいえ。あなたは恩人ですわ。必ずお礼をします。では、急いでいるので失礼するわ。ごきげんよう」


 女性は、よほど急いでいたのだろう。俺に頭を深く下げると、すぐに小走りに去って行った。しばらく、その後ろ姿を見つめていると。


「お客さん! ポラの実の代金。銅貨1枚だよ!」


 露店のおばちゃんの声で我に返る。そうだった。俺は、おばちゃんに銅貨1枚を払った。



 その後、街の色んな場所を見て回った。必要な物も買い物した。満足すると宿屋に戻る。


 そして、夕飯時。宿屋の食堂でエルダと合流した。


 エルダは今日、冒険者ギルドに出向いて仕事を探していたのだ。ご苦労様です。


「どうだい? エルダ。何かいい仕事は見つかったかい?」


 エルダに声をかけるが、彼女は少しうかない顔をしている。


「うーん。仕事は見つかったと言えば、見つかったんだけど。ちょっとねえ……」


「ん? どんな仕事なんだ?」


「モンスター退治なんだけど。相手がブラッディベアなのさ」


 ブラッディベアと聞いても、どれほどのモンスターなのかピンと来ない。ただベアという名前からして熊のモンスターであろうことは想像がつく。


「そのブラッディベアっていうのは強いのか?」


 エルダは、少し黙って頷いた。


「けっこう強いよ。サボテン人間なんて比にならない。厄介な相手さ…… しかし、倒せばいい金になる。私1人じゃ手に負えないけど、あんたの投石の腕があれば、何とか倒せるとは思うんだ」


「他に手頃な仕事は無かったのか?」


 俺が聞くと、エルダは首を横に振った。


「残念ながら、今ある仕事はこのブラッディベア退治だけだね…… どうする? キュータ」


「うむ。他に仕事が無い以上、仕方ない。俺は、ほとんど金を持ってないし。その仕事引き受けよう」


「そうだね。ちょっと危険だけど。やるしかないね」


 冒険者である以上、多少の危険リスクは常にある。そして、生きていくためには仕事で、お金を稼がねばならない。


 こうして、俺の冒険者としての初仕事は、ブラッディベア退治に決まった。



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