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97話

 しかし、すぐにアニーは切り替えて着替えに入る。


「どうっスか? 合ってます?」


 前開きで深いネックラインの白いブラウスに、ピッタリと体に密着する、腰上までのカーキ色の花柄ボディスとロングスカート。そして薄墨色のこれまた花柄のエプロンとリボン。


 サイズもだいたい合っているようで、テオはひとまず安心した。


「うん、いいね。気に入ったのなら、よろしく頼むよ」


 いつもとは違う格好で働くのは新鮮で、アニーは少しむずがゆい。緊張もするが、しかしワクワクもする。


「えへへ」


 自然と笑みが溢れる。制服でそんなに気分が変わるのかと懐疑的であったが、実際に自身が体験してみると悪くない。むしろいい。


 喜んでもらえてテオも嬉しいが、とりあえずお客さんもいることだし早く戻ろう、と促す。いくら全員知り合いとはいえ、さすがに空けっぱなしもまずい。


「とりあえず、やってみようか。あまり他と変わらないと思うけど、まずはドリンクね。で、その後、注文を取る。じゃ、よろしくお願いします」


 ドイツではレストランやカフェでは、最初に水は出てこない。水は基本的には有料であり、最初に飲み物のオーダーを取る。そして、メニューが決まったら手を上げる、もしくはメニューを閉じることで、ウェイターがオーダーを聞きに来る。


「はい、任せてください!」


 いつもやっていることではあるが、場所も人も服も変われば、アニーでも多少なりとも緊張はする。


 だが、そんな雰囲気を察してか、お客のほうから声をかけてくる。新人は大事にする。なんせまわりには飲食店はない。全員で育てていかなければ。例え一時的なヘルプ要員だったとしても。


 すると気をよくしたのか、アニーもつい喋り過ぎてしまう。緊張が緩んでくると、自由な店でやっていた影響か、ドリンクを奢ってもらったりなど、すぐに溶け込んだ。

 

「お嬢ちゃん、新しいウェイトレスさん? 見ない顔だね。パウラは?」


 そのうちの常連らしき中年の男性が、アニーに声をかけた。パウラとは休みのスタッフの名前らしい。


 そのことは、何人かからアニーは聞いていた。なので、若干テンプレになってきた返しをする。


「いやー、ヘルプで来てるんですよ。なんかいつもいるスタッフさんが体調不良とかで。でも、新調したディアンドルが着れたんで来てよかったっス」


 あ、ディアンドルを新調したのは初めて言ったかも、と閃いたが、まぁ隠すような内容でもないからいいか、とそのまま通す。それよりも似合ってます?

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