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93話

「どーも! キミがアニエルカさん?」


 店の前では爽やかな中年男性が待っていた。カフェ『ブッフ』。本、を意味するカフェレストラン。家はレンガ造が多いが、ブッフは白い石造りの建物で、ヴァルトに似ていなくもない。二階建てで、この周辺では一際大きい。


「どもっス! アニーと呼んでください」


 元気よく挨拶するアニーだが、どこかダーシャの匂いを感じる。まさか……この人も独身か!?


 男性は申し訳なさそうな表情で、今回の経緯を説明する。

 

「いや、すまないね。いつものスタッフが昨日から体調を崩しててね。他のバイトの子も捕まらなくて。まぁ、まったりとしたところだから、ひとりでできなくもないんだけど、ここしかないから。混む時は混むんだよねぇ」


 いや、これは恋人がいる匂いだ。たしかに、ウチの店長よりも爽やか且つ、仕事ができそう……と勝手にアニーは値踏みする。


「いいところっスねぇ。どっちかというと、ボクの出身もこういうのどかなほうなので。思い出します」


 実際ほのぼのとしていて、数日過ごせばこのゆったりした時間の経過の心地よさに、抜け出せなさそうな気もする。無理やり店長に派遣されたが、中々悪くない。ユリアーネさんも一緒にいれば……。


「そう言ってもらえると助かるよ。テオ・ローデだ。よろしく」


 ガッチリと握手。いい人だ、とアニーは瞬時に悟った。


 現在、お店は開けたままだが、アニーの準備の時間に割く。中にお客さんは数名いるが、全員常連でなにも問題はない。少し空けるよ、と伝えてあるとのこと。自由だ。


 艶のある重厚な木のドアを開けて中に入ると、アニーの目に飛び込んでくるもの。


「うわぁ……本、ばっかり、です……」


 全面が木で作られ、まるでキャンプ場のコテージのような内部。天井の梁なども見せていくスタイル。そして壁という壁は本棚になっており、まるで古書店のようだが、六人がけ、四人がけのテーブルやイスが規則正しく置かれ、休息を約束してくれる。赤茶色のブロックタイルの床は割れなどなく、よく掃除されている。


 それ以外にも、至るところに高いものや低いものなど様々な本棚があり、本の総数はわからない。二階は客席中心だが、壁にはこちらも本棚にびっしりと本。キッチンなどは一階の店の奥にある。


「ここには有名な小説やら詩やら、料理本なんかも多く取り揃えているね。店にいる間は読み放題だし、最新の雑誌なんかも仕入れているから、老若男女問わずたくさん来る。一度、パリにある漫画カフェってのに行ってみたいねぇ」


 テオの言う通り、客はコーヒーを飲みながら様々な雑誌やら本やらを読み耽っている。なかにはパソコンを使っている者もいるが、共通しているのはゆったりとした時間の流れ。

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