表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/319

87話

 アニーのシフトも終わり、二人は店の前に駐車しておいた自転車の元へ一緒に向かう。いつも一緒に帰る時のルーティン。たった数日していなかっただけなのに、長いことしていなかったような気がしてくる。それほど色々あった。


「でも、私も謝らなければいけませんね」


 自転車の鍵を外そうとしているアニーに対し、街灯と店の灯りに目を向けながら、ユリアーネは小さく溢す。


「? なにをっスか?」


 カチャン、という鍵の外れた音を確認し、アニーは振り向いて問いかける。ボクが謝るならわかりますけど、ユリアーネさんも?


 その理由をユリアーネは、白い息を吐きながら述べる。


「いつもアニーさんの家に泊まってはいましたが、私の家には呼んでいませんでしたから」


 いつもアニーと一緒の時は彼女の家。なんとなく、その流れが決まっていた。自分の家を紹介するのは少し恥ずかしいし、掃除も何日もしていない。そんな都合から、遠ざけていた自分にも、今回の原因がある。平等ではなかったかもしれない。


 ユリアーネが戒める姿を見つつ、アニーは自転車に跨った。


「そんなことっスか。気にしないでください。ミステリアスなところもポイントです」


 そして、笑う。


 一瞬、大きく目を見開いたが、つられてユリアーネも笑う。アニーさんの笑顔を見ると、鏡のように自分も。やっとここに戻ってこれた。


「……今日は私の家に行きましょうか。紅茶はあまりありませんが——」


「いいんですか!? ぜひ!」


 間髪入れず、血相を変えたアニーが反射で答える。もう脳内では、家の中で仲良く会話をする姿が思いついてしょうがない。気合いをさらに入れる。自転車があれば、電車に乗らなくてもいける。このまま直接向かう。


「ふふ」


 そのやる気に満ち溢れたアニーの動きに、ユリアーネはこっそりと笑う。


 ゆっくりと漕ぎ出したアニーだが、この数日のことを思い返し、率直な想いを吐露する。


「でもなんか妙なんですよね、なんでそんなに突っ走っちゃったのか。ユリアーネさんのこととなると、途端に視野が狭くなってるのかも。今思えば、たしかにやりすぎだったかもです……」


 反省っス! と、途端に大きな声で宣言。もっと自分ではなく、ユリアーネ中心に考えなければ。全てはこの背中の温もりを、いつまでも感じるために。


 その言葉を聞き、ユリアーネはポテっ、とアニーの背中に寄り添う。


「いいんです。私も大切にされてるな、って感じましたから。ありがとうございます」


 目を瞑る。より近く感じる気がする。心臓の音、はわからないけど、たしかにここにいる。


「……飛ばしますよ」


 意を決したアニーが、大きく呼吸を変える。


 そして、ユリアーネも応える。


「はい、お願いします」


 自転車の二人乗りは、ベルリンでも違法。バレたら罰金だ。それでも、お互いに通じ合った心を確かめながら、二人は家路を駆け抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ