78話
あれ? オリバーさんてカッチャさんより年上っスよね? と、二人の関係性を不思議がるアニーだが、それよりもなにか企んでいる点に言及する。
「なんスか? 怪しすぎっス」
果たしてこのまま座っていていいのか不安だが、カッチャが怖いので待機。
足を組んで背もたれに寄りかかりながら、カッチャが真相究明にかかる。
「ユリアーネにメッセージ送りまくってるんだって?」
しかもどうでもいいような、返しようもないくだらない中身の。
その気だるげな、真剣に考えていなさそうな態度に、アニーは少しムッとする。
「まくってないっス。そこそこです。ユリアーネさんのためなんです」
心の中で舌を出して反抗する。実際にやったら叩かれるので、あくまで心の中だけ。
「あんだけきたら、返せるワケないだろって」
なんたって合計で軽く一五〇くらいは受信していたことを、カッチャは思い出す。自分じゃなくても怖いわ。それでもアニーを気遣うユリアーネには、優しいを通り越して、甘いとさえ思う。
それでも、アニーは心が変わらない。
「心配なんです。ユリアーネさん、可愛いっスから」
心配、そう、心配だから。寝相も悪いし。世間知らずだし。色々と面倒を見なくては。自分が。
「あ、そう……」
なんかもう、どうでもよくなり、カッチャは呆れるしかできない。だがそれはユリアーネが感謝をしていれば、の話だ。
そこへ、トレーにグラスを乗せたオリバーが戻ってくる。そしてそれをアニーへ。
「お待たせしました。こちら、ジャスミンティーになります」
コトッ、と小さく音を立てて目の前に置く。
その様を、アニーは眉間に皺を寄せて眺めている。落ち着く香りが鼻腔をつく。
「……なんスか、これ。それにこのグラス——」
「そう! こちらはフィンランドが誇るブランド『イッタラ』のウルティマツーレになります! 氷と雪に閉ざされた極北の島、を意味しており、巨匠タピオ・ヴィルカラが、ラップランドの氷が融ける様子にインスピレーションを——」
「いや、いいから。とりあえず飲みな。あたしの奢り」
許しが出た瞬間に暴走するオリバーだが、カッチャが制止して円滑に話を進める。ほっておいたら、いつまでもグラスの話しているだろう。
「失礼」
そう言ってオリバーは一歩下がり、警備員のように仁王立ちした。
胸にモヤモヤがつっかえているアニーは、何度もグラスとカッチャを交互に見る。とはいえ、ジャスミンティーは好き。目の前にあったら飲まないのは無理。
「……なーんか怪しいっスけど……いただきます」
グラスも冷やされており、仕事開始前に喉を潤すには充分。全身の血液に乗って、華やかな花弁が駆け巡るよう。
「……うん、美味いっス。ジャスミンの花の香りがよく出ていて、落ち着く。やっぱりコーヒーよりも紅茶のほうがいいっス」
それだけは譲れないっス、とコーヒーを目の敵にする。最近はコーヒーを飲むこともあったが、やはり紅茶の次点。もしも紅茶が今すぐ飲みたいというのに、どうしても、どうしても見つからなかったら。そんな時だけの飲み物。




