表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/319

78話

 あれ? オリバーさんてカッチャさんより年上っスよね? と、二人の関係性を不思議がるアニーだが、それよりもなにか企んでいる点に言及する。


「なんスか? 怪しすぎっス」


 果たしてこのまま座っていていいのか不安だが、カッチャが怖いので待機。


 足を組んで背もたれに寄りかかりながら、カッチャが真相究明にかかる。


「ユリアーネにメッセージ送りまくってるんだって?」


 しかもどうでもいいような、返しようもないくだらない中身の。


 その気だるげな、真剣に考えていなさそうな態度に、アニーは少しムッとする。


「まくってないっス。そこそこです。ユリアーネさんのためなんです」


 心の中で舌を出して反抗する。実際にやったら叩かれるので、あくまで心の中だけ。

 

「あんだけきたら、返せるワケないだろって」


 なんたって合計で軽く一五〇くらいは受信していたことを、カッチャは思い出す。自分じゃなくても怖いわ。それでもアニーを気遣うユリアーネには、優しいを通り越して、甘いとさえ思う。


 それでも、アニーは心が変わらない。


「心配なんです。ユリアーネさん、可愛いっスから」


 心配、そう、心配だから。寝相も悪いし。世間知らずだし。色々と面倒を見なくては。自分が。


「あ、そう……」


 なんかもう、どうでもよくなり、カッチャは呆れるしかできない。だがそれはユリアーネが感謝をしていれば、の話だ。


 そこへ、トレーにグラスを乗せたオリバーが戻ってくる。そしてそれをアニーへ。

 

「お待たせしました。こちら、ジャスミンティーになります」


 コトッ、と小さく音を立てて目の前に置く。


 その様を、アニーは眉間に皺を寄せて眺めている。落ち着く香りが鼻腔をつく。


「……なんスか、これ。それにこのグラス——」


「そう! こちらはフィンランドが誇るブランド『イッタラ』のウルティマツーレになります! 氷と雪に閉ざされた極北の島、を意味しており、巨匠タピオ・ヴィルカラが、ラップランドの氷が融ける様子にインスピレーションを——」


「いや、いいから。とりあえず飲みな。あたしの奢り」


 許しが出た瞬間に暴走するオリバーだが、カッチャが制止して円滑に話を進める。ほっておいたら、いつまでもグラスの話しているだろう。


「失礼」


 そう言ってオリバーは一歩下がり、警備員のように仁王立ちした。

 

 胸にモヤモヤがつっかえているアニーは、何度もグラスとカッチャを交互に見る。とはいえ、ジャスミンティーは好き。目の前にあったら飲まないのは無理。


「……なーんか怪しいっスけど……いただきます」


 グラスも冷やされており、仕事開始前に喉を潤すには充分。全身の血液に乗って、華やかな花弁が駆け巡るよう。


「……うん、美味いっス。ジャスミンの花の香りがよく出ていて、落ち着く。やっぱりコーヒーよりも紅茶のほうがいいっス」


 それだけは譲れないっス、とコーヒーを目の敵にする。最近はコーヒーを飲むこともあったが、やはり紅茶の次点。もしも紅茶が今すぐ飲みたいというのに、どうしても、どうしても見つからなかったら。そんな時だけの飲み物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ