76話
振り返らず、部屋のドアに向かいながら、カッチャはこの先を予見する。
「……あんたとしては、あいつと引き剥がされていいの?」
そうなるとどうなるのだろうか。店の雰囲気が悪くなるのだけは勘弁。でも、解決しない限り、着信拒否にでもしないと、ユリアーネも精神的に参ってしまう。
それでも。
「……嫌です。とりあえず、理由を知りたいだけです」
やっと、心から許せる友人ができたと思う。ユリアーネとしては、普通に。ただ普通にお店を続けていきたい。お互いにわかっているはず。バランスが崩れているだけ。ほんのちょっと。
カッチャとしては、ユリアーネの気持ちもわかった。やれやれ、という感想しか出てこない。
「なるほどねぇ。ま、たいした理由じゃないと思うけどね」
「?」
こういうのは、歴の長い自分達の方が、あいつのことはわかっている。疑問符を浮かべるユリアーネも、そのうちわかるだろう。
「いいから。ま、あいつのことは、嫌いになんないでやってよ。おやすみ」
ユリアーネの反応は見ずに、カッチャは部屋から出ていく。たぶん、ユリアーネはしばらくそのままの体勢だろう。
「まぁ、だいたいの予想は……ついてんだよね……まーじで茶番」
一度、家の外に出て寒気に当たる。気温は三度。ノイバウの賃貸アパート三階。そこが自分の家。中庭まで散歩がてら歩く。吐く息は、ため息は白く舞い上がり、夜の闇に消えていく。
「さて、まだいるかねー」
若干の眠気がありつつも、寒さが意識を保ってくれる。カッチャは携帯を取り出し、電話をかけた。




