64話
「エンターテイメント……ですか?」
漠然とした答えに、アニーはきょとんとする。なにかワァーっとするものだということはわかるのだが、範囲が広く、うまく飲み込めない。インド映画みたいに踊るとかっスか?
まず、その理由を発案者であるユリアーネが説明する。
「はい、やはりSNSというものを味方につけたほうが、これから生き抜いていける、という風に感じました」
それがここ最近、そして昨日、他店舗へ偵察に行き感じたこと。売上を伸ばすことはつまり、客数を増やすことと同意。まずは分母を増やすことを第一に。単価はそれからだ。
「それとエンターテイメント、どういう繋がりが?」
なんとなくわかってはいるのだが、若者達の成長を促すため、ダーシャはあえて質問を投げかける。カフェはどちらかというと、落ち着きの場所。そこへ娯楽の投入。果たして。
それに対する答えも、ユリアーネは持ち合わせてきた。
「カフェである以上、『美味しい』というものを目指すのは大事ですが、それ以上に『美味しそう』『楽しそう』と客観的に見ても、この店に行きたいと思えるような、なにかが必要なのでは、と」
味というものは、飲み手による主観の感想となってしまうため、どうしても他者には伝わりづらい点がある。『こんな風に』『○○のように』と言われても、人によって感性が異なるからだ。
しかし、写真や映像、もしくは大雑把でも、特殊なことをやっていると文章で知ることができれば、受け手が自由に解釈することができるため、それぞれの理由で来店する理由となる。
「なるほど。それがエンターテイメントね。例えばラテアートであれば、海外からの観光客にもわかりやすいからね。ありだとは思う。ただ……」
一定の理解はしつつも、ダーシャは語尾を窄める。
「どちらかといえば、ウチは『隠れ家』的なスポットとして、利用されることが多いからね。森、っていうコンセプトと店名だし」
ヴァルトは森を意味する。そこでひっそりとした非日常を味わうことが、現在の店の方向性だ。いきなり森の中でカーニバルをするような変更は、常連客にも戸惑いを与えかねない。
そういえば、とアニーがひとつ閃く。
「エンターテイメントといえば、前に森の動物のマスクつけてやったことありました。ホールだけでしたけど」
過去のチャレンジを思い出す。森、ということはつまり動物、ということで店員だけ少し特殊になったこと。ありましたねぇ、としみじみと感傷に浸る。
「マスク?」
なにやらおかしなことを、と思いつつも、ユリアーネは一応は内容の把握に努める。
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