62話
どんだけハイスペックなんスか……と、説明を受けたアニーは愕然とする。ひとつしか年齢が変わらないのに、とても大人びて見え、いつも学校のあとのバイトのことしか考えない自分とは大違い……。
「はー……すごい方っス……!」
あまりいい語彙が見つからなかったので、とりあえず『すごい』でまとめる。
さっきまで寝る一歩手前だったユリアーネだが、今は覚醒し、キラキラとしたオーラまで感じる。
「私もお話できたのは初めてです。とても気さくな方です……今日は一日、いいことがありそうですね!」
ねぇ!? と、アニーのほうに力強く振り返る。
気持ちはわからないでもないが、変わりようにアニーは苦笑いを浮かべる。
「ユリアーネさんがここまでテンション上がってるの、初めて見るかもです……でも、あの方……」
少しだけ、ほんの少しだけ感じた違和感。香り。
その儚げなアニーの表情に、すっかり元気になったユリアーネは疑問を投げる。
「? なんかありましたか?」
惚けている、というのとは違う、悩ましい顔つき。曇らせているものはなんなのだろう。
確実な自信は持てないが、なんとなく、アニーの嗅覚が黄色信号を告げる。
「嘘、ついてるっス。なにかはわからないですけど。よくない香りがしました」
アニエルカ・スピラ。かつて太古の人々が持っていたといわれる、現代ではほぼ全ての人類には退化してしまった、鋭敏な嗅覚を持つ。相手の嘘や感情すら読むほどに。その鼻が、シシー・リーフェンシュタールは我々を欺いている、という判断を下した。なにかはわからない。
アニーの嗅覚を知っているが、そんなこと、とユリアーネは呆れて歩き出す。
「人間ですから、なにかしらストレスの溜まることもあるはずです。もしかしたら、赤信号を渡ってしまった、とかにすら、罪悪感を感じる方なのかもしれません」
たったひと言、言葉を交わしただけだが、信者のようにシシーを崇める。それほどまでに神々しく、眩い存在だった。
「……そういうのとはまた違うんスけど……まぁ、いいか。ユリアーネさんも眉目秀麗っスよ」
切り替えて、アニーは先を行くユリアーネの横に並ぶ。嘘ではない。ベクトルが違うだけで、アニーには同列だ。
ツーンとしつつも、笑みを浮かべて自分を取り戻す。アニーが褒めてくれるのなら、ユリアーネもまんざらではない。
「それはありがとうございます」
「本当っス。本当に本当」
そんな他愛のない会話を繰り返し、学院への道を歩む。
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