59話
「これは……炭酸水と、なんですか? この黒っぽい、けどコーラのような、そうじゃないような液体は……」
コーラを使うと言っていたので、ならばコーラなのだろうが、クリアボトルに入れている点がユリアーネは気になる。そしてそのボトルにはレモンが一緒。これはもしかして——
「こちらは『クラフトコーラ』、いわゆる手作りコーラですね。まぁ明確な定義がないので、コーラっぽいもの、ってところです」
アニーが解説をいれる。言葉通り、何を入れたらクラフトコーラになるのか、という決まりがない。クラフト、つまり手作りのコーラであれば、全てクラフトコーラなのだ。
なるほど、と納得するユリアーネだが、気になる点はもうひとつ。
「それはわかりましたが……紅茶は……」
そう、アニーといえば紅茶。しかし、この材料は明らかにクラフトコーラ。
ふふん、とアニーが自慢げに蓋を開ける。
「もうすでにこの中に仕込んであります。作り方は、レモン・シナモン・クローブ・ショウガ・カルダモン・バニラビーンズ、さらに水と砂糖を混ぜて煮詰めるだけです。砂糖はお好みで、てんさい糖や黒糖に変えるのもいいっスね。ボクはあえてココナッツシュガー」
ほのかに薬味のある香りが放たれる。すでに作ってしまってあるので、解説は簡単に。
「中火で加熱し、沸騰したら弱火で一〇分ほど煮込みます。別の鍋でもうひとつ、水と砂糖、そしてボクがオススメするのは、デンマーク王室御用達の紅茶『クイーンズブレンド』。これをカラメルティーとして、加熱して煮詰めたものを、先ほどのものと合わせて、さらに弱火で加熱」
炭酸水を開け、準備を進めながらアニーは解説を続ける。とはいえ、クラフトコーラは煮詰める以外に特にやることはないので、非常に簡素な文を添えるだけだ。
「火を消し、そのまま蓋をして半日。常温で粗熱を取った後、濾して昨晩から冷蔵庫で冷やしていたわけです」
そして今に至る。
ユリアーネはアゴに手を当てて、昨日からの不自然さに納得。朝、この家を出る前の香り、そして帰ってきてからのアニーの行動。
「なるほど……だから昨日は私が部屋に上がるまでに、少し時間がかかったわけですね。これを急いで冷蔵庫に入れるために」
昨晩、一緒に帰宅した後、五分ほど外で待たされたことを思い出した。別に秘密にするほどでもないのだから、言ってくれればいいのに、と少し不貞腐れる。が、自分を驚かせたいというアニーの想いは受け止める。
へへへ、とアニーは照れ笑いをする。
「その通りっス。それらを密閉できる容器に詰めれば、コーラシロップの完成です。これを炭酸水で適当に割れば、『クラフトコーラティー』になります」
コップにシロップと常温の炭酸水多めに注ぐアニーは、少しドキドキする。炭酸水ではなく、熱湯で割ればホットクラフトコーラになる。朝イチなので、少し温く作る。
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