56話
おぉ! と、興味深そうな顔をアニーは一瞬作るが、そのまま少しずつ明るさがフェードアウトしていく。
「エスプレッソコーラ……面白そうではありますが、どう考えても嫌な予感しかしないんですけども……」
それも仕方ない。コーヒーコーラは過去に何度か販売されているが、その度に生産中止となっている。興味はある。しかし、怖い。それが率直な感想。
それもユリアーネは予想済み。アニーのコロコロ変わる表情を、聖母のような微笑みで包む。
「案外美味しいんですよ? 私はコーヒーやエスプレッソ多めのほうが好きですが、アニーさんはさらにコーラ多めでもいいかもしれませんね」
アニーをイスに座らせ、今度はユリアーネがニコニコとした笑顔でアニーの顔を覗き込む。初めて、アニーに提供することができる。それが自分が思っていた以上に嬉しい。
その笑顔を向けられて、まんざらでもないアニーだが、味となると別。なんとなく、ユリアーネは料理などを失敗するイメージがある。とはいえ、せっかく作ってもらったので、いただいてみることに。
「……いただきます……」
「どうぞ、召し上がってください」
気乗りのしないアニーとは対照的に、ユリアーネは破顔し続けている。
おそるおそる、目を瞑り祈りながらアニーはカップに口をつけてひと口、飲んでみる。唇にアイスが当たり、それも一緒に。
「ん……あれ、思ったより飲みやすいし……美味しいっス……!」
拍子抜けするほどまろやかで、スルスルと喉元を過ぎていく。甘すぎず、苦味もいいアクセントで、正直美味。ひと口のつもりが二、三と飲んでしまう。
「これ、すごく美味しいっス! ユリアーネさんもどうぞ!」
と、手渡す。コーラのシュワシュワと苦味が新鮮で、半分以上飲んでしまった。
ユリアーネもひと口。彼女には少し甘いが、うまく混ざり合っていて、いい出来だ、と自慢できる。思った以上にアニーが喜んでいるようで、とりあえずはひと安心だ。
「ある意味で、前にいただいた『鴛鴦茶』に近いものがあるかもしれませんね。案外、試してみないと、そして研究してみないとわからないものです」
コーヒーと紅茶の合わさった鴛鴦茶。以前、ユリアーネがそれを飲んで以来、合わないと思ったものも一度やってみる、という決心に変わった。エスプレッソコーラも実は、ユリアーネは最初は予定にないものであったが、改良を重ねると悪くない、むしろ美味しいと感じるまでになっていた。
空になったカップを手に、アニーが興奮し捲し立てる。
「ありですね! 不思議な感じです、コーヒーの苦味が、逆にコーラの甘さを引き立てるような。キャラメルもアイスクリームも、風味をつけるような……」
うまく言語化できないが、今度自分でも作ってみようか、と思えるほどに美味しかった。グラインダーやエスプレッソマシンも、ユリアーネが持ち込んだものがある。その他の道具は元々あるものだ。コーラさえ買っておけばいつでもできる。
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