55話
「挽き終わった豆をタンパーという道具で上から押し込み、豆の高さを水平に。高さに違いがあると、味にムラが出ますので」
そして、マシンにポルタフィルターを取り付け、九気圧で抽出。この時、家庭用であれば、ラテアート用のスチームと圧力を四・五ずつに分散し減圧することで、豆を蒸らすことができる。さらに飲みやすくなるのだ。
「そして、二、三〇秒ほど抽出したら止めます。これ以上やると、苦味が出てきてしまうので、このくらいにしてください」
抽出したエスプレッソは本来約六〇ミリリットルほどだが、アイスのため少し多めに八〇。これを氷入りのコップに入れれば、アイスエスプレッソの完成となる。
「完成っスか?」
難しい表情のアニーが、液体とユリアーネの顔を見比べる。いくら氷で薄まるとはいえ、アニーにはただのアイスエスプレッソでしかない。あまり、コーヒー類の苦さは得意ではない。
しかし、それを見越したようにユリアーネは、キッチンの冷蔵庫に向かう。
「これでも美味しいのですが、アニーさんを驚かせるには、これが必要となります」
そう、言いながら持ち出したのは、三五〇ミリリットル缶のコーラ。先日、冷蔵庫を拝借した際に目をつけていた。あとで新しいのを買っておこう。
「あ、ボクの——」
と言いかけてアニーは口をつぐむ。コーヒーとコーラ。聞いたことはある気がする。しかし、実際に見たことはない。飲むとなると少し勇気がいるが、味わったことがないという意味では、楽しみもある。それに、初めてのユリアーネの作ってくれるもの。口を挟まないようにしなければ。
「これをお好みで混ぜる。私のオススメはここにキャラメルフレーバーのシロップを少量。お借りしますね」
戸棚から瓶を取り出したユリアーネは、その液体に数滴、シロップを振りかける。部屋にはほんのりと甘い香りが漂い、心身ともに穏やかになる。
「それもボクが紅茶で使ってるヤツっス」
本来、アニーが家でフレーバーティーを楽しむために使っているものだが、ユリアーネはこちらも機会があれば使おうと思っていた。それにしても、かなりこの家のことを熟知している。
「それとバニラのアイスクリームも入れてもいいでしょう。簡単ですが、これで完成です」
バニラアイスはユリアーネが持ち込んだものだが、甘さをさらに引き出すために多めに使う。ディッシャーですくい、クリームソーダのようにフロートさせ、スプーンを添えた。
「キャラメル風味のエスプレッソコーラ、アイスクリーム添えです」
キャラメルやコーラやアイスなど、甘さが強いものが多いので、あえて従来よりもコーヒーの量を増やしている。アイスやキャラメルを追加しないのであれば、コーラを増やす。「どうぞ」と、アニーに差し出す。
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