41話
「まぁ、一度購入してしまえば、長く使えるものではありますからね。陶磁器は耐久性も高いはずですし、あまり切り詰める部分ではありませんが、お客様が割ってしまうこともありますし、汚れや欠けなどは避けられません」
まぁ、それは……と、アニーもオリバーも納得する。結局、なにも収穫はないままいくしかない。
すぐに解決できるとはユリアーネも思ってはいない。それでも、お金というシンプルすぎる課題が重くのしかかる。どんな店でも気にしないわけにはいかないことだ。経営の難しさの第一歩を踏み締めたような気がした。人に八つ当たりはしないようにしよう、した後、お互いに嫌な気持ちになってしまう。深く、ため息をついた。
「……こんな時、アニーさんなら、どんな紅茶が私に合うと思いますか?」
今の私は、どんな匂いがするのだろうか。ふと、気になった。疲れているのか。迷っているのか。そんな時、どんな紅茶が似合うのだろうか。
一瞬、真顔になったが、アニーはすぐさま笑顔が弾ける。誰かのために淹れる紅茶は、彼女の生き甲斐だ。
「ユリアーネさんにスか? いいんですか!?」
ユリアーネの両手を握り、さらに破顔の度合いが高まっていく。もし、やっぱりいいですと言ってももう聞かないだろう。お客さんに呼ばれても無視する。
「はい、少し店も落ち着いていますし、休憩をいただきます。あまり考えが凝り固まってしまうのもいけませんから、よろしければ一杯お願いいたします」
休憩を取りたいとは思っていたのと、もしかしたら彼女の一杯で新しい考えが浮かぶかもしれないとユリアーネは考えた。きっかけはなんでもいい。それに、単純に彼女の提供する紅茶への興味。
抑えきれない喜びを、アニーは爆発させる。
「まかせてください! 実は、ユリアーネさんのぶんも沸かしてあるんですよ。席の方で待っててほしいっス!」
煮えてきたケトルを見て、アニーはニヤリと笑みを浮かべる。これをあれとあれして、それであの人にはあれをあーしてもらって……。
「僕のぶんは?」
完全に蚊帳の外となったオリバーが、自分のぶんの紅茶を要求する。陶磁器も好きだが紅茶ももちろん好き。ある意味、この店でアニーと一番近い存在だ。
しかし「え? なに言ってんのこの人」という目でアニーは合図する。
「知らないんですか? 紅茶は『偶数杯ぶん沸かせ』って。奇数になるからダメです」
紅茶は『多めに沸かす』ことが美味しく淹れるコツである。ただ、多すぎてもいけない。ひとりぶん作るなら二人ぶん、三人ぶん作るなら四人ぶんの湯量で作るのが基本だ。そうしないと茶葉のジャンピングが違うため、味がしっかりと出ない。ならばこの場合、四人ぶん作ればいいのだが、今はユリアーネのためだけに作りたい。余計な人間はカウントしたくない。
「そんなことより、協力してもらいたいんスよ」
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