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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
ユリアーネ・クロイツァー
38/319

38話

「お初にお目にかかります、オリバー・シュヴァイクホファーと申します。よろしくお願いいたします」


 と、握手を求める。オリバーの名前は、元ドイツ代表のゴールキーパー、オリバー・カーンから付けられた。


 あ、と名前を思い出したのか、ユリアーネの顔が明るくなり、握手に応じる。サッカー選手も思い出したらしい。


「よろしくお願いします。ユリアーネ・クロイツァーです」


 ユリアーネは手を離すが、オリバーはそのままの形で固まる。瞬きもせず、なにかを考え込んでいるようにも見える。そして数秒後、


「まるで陶磁器のような滑らかさ……美しい……」


 天井を見上げると、目を瞑り、自身の胸に手を置きながら、まるで天から天使たちがお迎えに来て、そのまま昇天していくかのように恍惚の表情を浮かべた。彼の頭の中で、ラヴェルのマメールロワが流れる。


「はい?」


 あちゃー、と頭を抱えながら、アニーが間に割って入る。出ちゃったかー、と渋い顔だ。


「あー、オリバーさんはちょっと危ない生き物なので、オカピでも見かけたくらいに、遠目から生温かく見守ってあげてほしいっス」


 ちなみにオカピは絶滅危惧種なので、乱獲は禁止だ。


「失敬な。僕は誰よりも紳士だと自覚しているよ」


 戻ってきたオカピもといオリバーは、一瞬で気を気を引き締め、「失礼しました」と懇ろに謝罪した。


「そもそもキミのほうこそ、ダニエルをこの前落としそうになっただろう? わかっているのかい? クイストゴー作のレリーフはとても貴重なんだ。気をつけてくれたまえ」


「ふわーい、わっかりましたぁー」


「わかればよろしい」


 と、アニーが数日前に割りそうになったデンマークのブランド、クロニーデンのソーサーを思い返し、その時のことをオリバーは突き詰める。ダニエルという名前がついているらしい。明らかに気の抜けたアニーの返事だったが、彼はとりあえず落ち着いた。たとえ店長であったとしても、強気にいくところはいく。


「あのー、それでテーブルウェアについてなんですけども……」


 ユリアーネが本題に戻すと、オリバーは姿勢を正して胸を突き出した。自信の表れを体で表現する。


「はい、僕は世界各国の陶磁器を集めるのが趣味でして、花器やインテリアなどでの観賞用はもちろん、テーブルウェアなどの食器類にも精通していると自負しています」


 ややこしいことになってきた。聞かなければよかった。と、ユリアーネは後悔を含んだ嫌な予感がする。


「は、はぁ……それでなぜ北欧に」


 結論が見えないユリアーネが先を急ぐと、途端にオリバーの目がカッと見開いた。深く息を吸い込む。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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