37話
「そういえば、なんですけど」
と、平日金曜日の午後。学校も終わり、学生ながらオーナーを勤めているカフェ『ヴァルト』にて、ユリアーネ・クロイツァーが、他の店員に混じり、制服を纏いホール作業をしている。指示だけ出して、やり方がよくわからないのはもってのほか。自分も一から学ぼうと、教わりながら働いている。
「なんスか? 店長の前科についてですか?」
こちらも学生ながら店長を務めるアニエルカ・スピラ、通称アニーがユリアーネの問いに先んじて応じる。彼女の嗅覚は、他人の感情さえも読めるほどに発達している。
アニーが店長だが、店長っぽい見た目と、事務的な部分などの仕事を行なっているのは代理のダーシャ。ややこしいことにみんな『店長』と彼を呼ぶし、本来の店長であるアニーもそう呼ぶ。
「そうそう、やっぱり雇ってる側からしたらちゃんと把握してなきゃ、って違いますよ。ここのティーカップとか、ソーサーだとか、テーブルウェアです」
最初に面接に来た時から、ユリアーネは疑問に感じていた。それは『統一性』。白や柄が多少入っている程度のテーブルウェアが普通のカフェでは一般的ではあるが、この店のものは、むしろ柄がメインといったものが多い。四葉のクローバーや、チェック柄など、強めの個性が光る。ある意味、『森』というテーマとは真逆の人工的な印象すらある。自然と人の融合ということだろうか?
「テーブルウェアですか、いいとこに目をつけましたね」
と、お呼びでないのだが、勤務中のホールにも関わらず、ツカツカと二人に近寄ってくる影がある。今日はこのまま閉店作業まで。オリバーだ。『テーブルウェア』という単語を耳にし、厨房からやってきた。どんな耳をしているのか。
「説明しましょう。ここにあるのはほぼ、北欧のメーカーを取り揃えております、フラウ・ユリアーネ」
聞いてもいないのに、少し興奮気味に、そして丁寧に彼の解説が始まる。お客様にひとつ聞かれれば、一〇テーブルウェアについて返す、それが彼の信条だ。さぁ、どれから話そうか。
しかし、それ以前にユリアーネは少し腰がひけている。
「……えーと、ごめんなさい。お名前は」
まず、初対面。申し訳ないと思いつつも、ユリアーネはまだ全員の名前と顔を把握していない。制服からして従業員だとわかるが、えーと……確か有名なサッカー選手と一緒のファーストネームだった気が……というところまでは覚えている。
それを見、「これは失礼」と物腰柔らかくオリバーは自己紹介を始める。
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