318話
顎に手を置きながらダーシャは思案する。
「神秘的か……クラシックの曲でシューマンに『森の憧憬』って言う曲があったね。九つの小品で構成されたピアノ曲。まぁ、ウチには九人もスタッフいないんだけどね……」
言ってて辛い。常に募集をかけてはいるのだが。ユリアーネちゃんやウルスラちゃんが来てくれてよかった。なんとか今年もクリスマスを乗り切れそう。
クラシック。詳しいと頭良さそう、というのがアニーの所感。
「でもオシャレっス。この店がボクのものになったら、そっちに変更しようと思います。いいこと聞いたっスー」
むふふ、たまには店長もいいこと言うじゃないっスかー、と上機嫌。誰かに聞かれた時にはシューマンと答える。ベートーヴェンとかモーツァルトとかじゃないところが通っぽい。知らないけど。
「……でもこの曲はなぁ……」
「? どうかしたんですか? 曲になにか?」
言いづらそうにするダーシャにアニーが詰め寄る。もう決まったのに。せっかく褒めてあげたというのに。
その理由をダーシャが説明する。
「九つの小品とは言ったけど、その九つ目の題名が『別れ』なんだよね」
自分が悪いわけじゃないのに、なんだか申し訳ない気持ちに。二人には似合わない気がして。言わなきゃよかったかも。
それを聞き、ムスッとした表情のアニー。キョロキョロと周りを見回す。
「……店長、ガムテープどこっスか? どこにあります?」
せっかくこのあとはユリアーネの家に泊まって過ごす予定だというのに。士気を下げられてご立腹。
「え? なに? それでヒゲ抜かれんの? まじで?」
しかも雑に。せっかく生えてきたのに、とダーシャ。やっぱ。余計なことは言うもんじゃない。
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