317話
「ショコラーデ?」
紅茶はわかる。コーヒーもわかる。だがショコラーデ……と口に出してダーシャはすぐに思い出す。あの人。
にひっ、とアニーが悪どく笑む。
「クルトさんも巻き込むんスよ。せっかくコンサルタントとして付き合いがあるんですから」
「コンサルタント……でしたっけ?」
なんか違うような。ユリアーネの頭に大きなクエスチョンマーク。コンサルタントっていうとこう、なにかアドバイスとか助けてくれたりとか。
クルト・シェーネマン。若手ながらも、フランスの最優秀職人章であるM.O.Fまで取得した、ドイツを代表するショコラティエ。ありがたいことに、彼のショコラトリーと〈ヴァルト〉での共同開発が実現することとなったのだが。明らかにコンサルタントでは。ない。
同じくダーシャもそれについては否定せねば。
「いや。たぶんコラボ的なやつだったと思うけど。なんか都合よく書き換えられてるような」
まぁ、この子らしいっちゃらしい。この破天荒さが〈ヴァルト〉に刺激を与えてくれるわけで。結局はクルト・シェーネマンとお近づきになれたのも、全部彼女のおかげだし。メリットとデメリットの振れ幅が楽しい。
言われてみればアニーも少々違和感はあったが、それはそれ、これはこれ、と真実を捻じ曲げる。
「まぁまぁ。それにジェイドさんもこっちにはいるわけですから。味方は多ければ多いほどいいっスよ」
その名前にダーシャは反応する。土産話で聞いた。
「パリのショコラトリーで働いてる子だっけ。キミ達が勝手に働いちゃった店の。たしか店名は——」
「〈WXY〉。終わりはない、って意味だそうっスよ。カッコいいですねー、この店もさらに神秘的な感じにしとけばよかったっス」
アニーの考える店名。黒き森〈シュバツルツヴァルト〉とか。いや、黒にする理由はないけど。なんかシュッとする。




