314話
「脂肪分の割合も含めて秘伝のレシピだから言えないけど、なに? 家でも作ってみたい?」
女性はニンマリとした笑顔。こうやって研究対象にされること。それは嬉しい。
つられてアニーも、はにかみながら笑みを浮かべる。
「それもありますけど、ボク、カフェで働いてるんスよ。新メニューはなにがいいか色々と考えていて。美味しかったんで聞いちゃったほうが早いなと」
ライバル……と言っていいのかわからないが、包み隠さず打ち明ける。嘘を見破るのは得意ではあるが、嘘をつくのは苦手というのもある。
だが、そんな姿勢が女性には好感触。
「素直だねぇ。素直だからオマケしてあげちゃおう。もちろん、これはこれでまた特製のクヴァークを使っている。色々試してみてね」
そう言うと、ショーケースからもうひとつ追加で持ってくる。ムース包まれており、ほんのりとラム酒入り。この店の看板メニューであり、一番の自信作でもあるショコラーデのチーズケーキ。海外からの観光客も、これを目当てに来るほど。
パッと表情を明るくさせたアニーは手を叩いた。
「ありがとうございます! 持ち帰りも、お願いします」
自分だけで独占してしまうのは申し訳ない、と〈ヴァルト〉のみんなでシェアするためにいくつかテイクアウト。今日出かけることはユリアーネにも伝えていたし。夜はお喋りしながらチーズケーキ。優勝。
「こっちもオマケしとくからね」
女性はこの真っ直ぐな少女が気に入った。もとから常連客には大盤振る舞いすることは多かったが、初めてでも気に入れば多目に入れておく。また来てほしい。なんだかこの子を見てると『頑張ろう』って気になれる。
その女性の背中にアニーも勇気をもらえる。寒い日が続くベルリンだけども。ほっこりと温かい。
「いやー、やっぱり言ってみるもんスねぇ。ねぇ、ユリ——」
と言いかけたところで。




