312話
そこでは、紅茶に合う花のジャムやエディブルフラワーなどを知った。ただ紅茶だけではなく。お互いに高め合う存在。マリアージュ、というもの。
「シャルルさんやレティシアさん、サキナさんは元気っスかねぇ。あ、あとリオネルさん」
たぶんパリのほうを見上げてみる。同じように寒くて。きっと今頃は温かい飲み物でも飲んでいるんじゃないか、と勝手に予想。パリ八区。〈ソノラ〉という花屋。ユリアーネとリディアは一緒に行ったのだという。羨ましい。
チーズケーキが運ばれてくる。なんとなくリンゴのチーズケーキ。ショコラーデのケーキと迷った。ユリアーネさんがいれば。半分ずつシェアしたり。感想を言い合ったり。やっぱりひとりよりも今は二人のほうが楽しい。
紅茶もセットで。シンプルなストレート。茶葉はキームン。キームンにはほのかに燻製のような香りが混じる。よく言われるのは『等級が低いほど、燻製の香りが強い』。だけど、強ければそれはそれで美味しい。等級とか関係ない。その人に美味しいのならそれでいいのだ。
体の芯から温まる。ゆっくりと息を吐く。美味しい。よく飲む茶葉なのに。空間が違うだけで全く知らない味になる。きっとこの味も一期一会なのだろう。今後、この店の同じ席で同じものを頼んだとしても、同じように感じられるとは限らない。
「ケーゼ・クーヒェン……ケーゼ・クーヒェンっスか……」
ケーゼ・クーヒェンとはチーズケーキのこと。いくらでも食べられそうなくらいに美味しい。と、同時に不思議な感覚。チーズケーキは〈ヴァルト〉にもある。もちろん、そのお店独自の味というものがあるのだから、違いはあって当然。なのだが、なんだか妙な。
チーズケーキは基本的な作り方として、クリームチーズや卵やバターなどの材料を混ぜてオーブンで焼き、しばらく冷やす。手順としては今食べているものもほぼ同じだとは思うのだが。




