305話
「新メニューのことですが」
部屋着のユリアーネが、ベッドに腰掛けながら〈ヴァルト〉のメニューについて思案を巡らせる。数秒置いて、横に目をやりつつ「なにかありますか?」と問いかけた。
仕事も終わり、現在の時刻は二三時。少し眠気が出てきた頃。壁紙。家具。自身の家ではない。が、それ以上に落ち着く要因がいくつもある。香り。飲み物。そして——。
部屋の主、アニーも部屋着で隣に。
「そうっスねぇ、ボクとしてはスモーブローなどをオススメしていきたいところです。映える料理っス」
もう夜中で寝るだけだというのに。歯も磨いたのに。想像すると食べたくなってしまう。紅茶に合ってしまうんだから。でもすこーしだけ、コーヒーにも合いそうなところも認めてあげてもいい。
しかし初めて聞いた単語にユリアーネは戸惑う。
「スモー……ブロー……?」
色も形も全く想像できない。スモーク……燻製的ななにかだろうか、と予想だけ立てた。そこに。
「スモーブローは北欧発祥のオープンサンドのことだよユリアーネ。スモーはバター、ブローはパン。スモールゴスとか、そっちのほうが通じる国もあるかな?」
二人の間に乱入するのはリディア・リュディガー。同様にゆったりと余裕のある部屋着で、ベッドに横たわりながら会話に混ぜてもらっている。そして起き上がると体も二人の間にするりと。
横目でなんともいえない歯痒さを表現するユリアーネ。口元もワナワナと震える。
「……なるほど……オープンサンド……」
切り替え。詳しく優しく教えてくれただけ。せっかくの二人きりだった時間に入り込んできた異星人、ではない。では……ない。チラッと見ると目が合う。すかさず逸らす。




