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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
ビリヤードとダーツ。
304/319

304話

 アニーのほうにはピンときていない模様。


「なんスか、それ?」


「二〇一七年のバリスタの世界大会で、カナダのベン・プット氏が披露した技です。一度ミルクを凍らせて、その後溶かしていくと、甘いところから溶け出していくため、それを使う、という感じでしょうか。残った氷もほんのりとした甘さがあるため、シャーベットとして使えますし」


 言い終えて「なるほど」と再度ユリアーネは頷く。それは盲点であった。やはり様々な人に意見をもらうことは大事。


 ベン・プットは二年連続で三位入賞を果たしており、今年こそはと意気込んで参加したものの、結果は四位。充分にレジェンドだが、彼のすごいところは常にコーヒーの可能性を追いかけている点。勝ち負けよりも人々の記憶に残る一杯を提供してくる。


 それは紅茶にも使えるかもしれない。アニーの表情がパッと明るくなる。


「いいっスね! さすがカッチャさんス!」


 裏表なく見つめられると、さすがにカッチャも恥ずかしい。


「……そりゃどうも」


 なんというかこう、この子達は守ってげなきゃ、というのは……そう心のどこかにあるのは否定できない。弟とか妹とかいなかったし。そういうのを求めているのかもしれない。


 そこにウルスラが声をかける。


「やっぱりアニーとユリアーネがいるとなんかこう、違いますね」


 上手く言葉にはできないけど。場が朗らかというか、華やぐというか。二人がいない時はそれはそれで違う〈ヴァルト〉ではあったけど、こっちが、こっちこそが本物の〈ヴァルト〉。だと思う。まだ働き出して間もないから、正しいのかわからないけど。


 静まった店内をカッチャは見渡す。この森の中はきっと、賑やかなほうが似合っている。


「かもね」


 やると決めたのなら。どうせやるのなら。自分にできることを自分にできる範囲内で? やってやろうじゃない?

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