303話
そしてその手をアニーが握る。
「それで充分スよ。助かるっス!」
真っ直ぐな瞳。疑うことを知らない、純白で潔白な。吸い込まれる。全てがどうでもよくなるし、全てを許したくなる。そんな瞳。
ひとまずの決着。去っていく人々。ビロルは残って対面の席に座る。
「……あーあ、こりゃ辞めらんなくなっちまったな」
気持ちはわかる。自分も通ってきた道。他人のことなどどうでもいいが、モヤッとしたものは残る。
誰にぶつけていいかわからなかったカッチャの鬱憤。ちょうどいい相手がいた。
「どうすんのよ。一応勉強しなきゃいけないんだけど」
「安心しろ。してなくてもなんとかなる。ちなみに俺はしてないけど、先生達と仲良くしたらいけた。アドバイスな」
結局のところ、結果的に『合格』すればいいわけで。過程は重要ではないとビロルは言い張る。アビトゥーアの試験とギムナジウムの成績から、その範囲内で好きな大学に入学することができる。つまり、試験がダメでも方法はないことはない。
まぁ、この男がなんとかなってるなら、と少しはカッチャの気も紛れる。まずは大学に入ること。それさえできれば。席を立つと、その閉店作業に戻った小さな背中を追いかける。
「ちょっとだけ、私だったらミルク感が強くてもいいかな、とは思う。私よ? 私にとっては。他は知らないけど」
「ミルク感、スか?」
背後から頭をポンポンされたアニーは振り向き見上げる。
上手く言葉に出せないカッチャ。身振り手振りで言いたいことを伝えようとする。
「ほら、なんかあったでしょ。濃縮するやつ。凍らせて、ほら」
我ながら端的すぎるか、と諦めかけたが、そこに。
「凍結濃縮分離法を使用したミルクですね。なるほど。それもアリかもしれません。やってみましょう」
話に吸い寄せられるようにユリアーネが入り込む。濃縮ミルク。思い出したものがある。




