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14 Glück 【フィアツェーン グリュック】  作者: じゅん
ビリヤードとダーツ。
303/319

303話

 そしてその手をアニーが握る。


「それで充分スよ。助かるっス!」


 真っ直ぐな瞳。疑うことを知らない、純白で潔白な。吸い込まれる。全てがどうでもよくなるし、全てを許したくなる。そんな瞳。


 ひとまずの決着。去っていく人々。ビロルは残って対面の席に座る。


「……あーあ、こりゃ辞めらんなくなっちまったな」


 気持ちはわかる。自分も通ってきた道。他人のことなどどうでもいいが、モヤッとしたものは残る。


 誰にぶつけていいかわからなかったカッチャの鬱憤。ちょうどいい相手がいた。


「どうすんのよ。一応勉強しなきゃいけないんだけど」


「安心しろ。してなくてもなんとかなる。ちなみに俺はしてないけど、先生達と仲良くしたらいけた。アドバイスな」


 結局のところ、結果的に『合格』すればいいわけで。過程は重要ではないとビロルは言い張る。アビトゥーアの試験とギムナジウムの成績から、その範囲内で好きな大学に入学することができる。つまり、試験がダメでも方法はないことはない。


 まぁ、この男がなんとかなってるなら、と少しはカッチャの気も紛れる。まずは大学に入ること。それさえできれば。席を立つと、その閉店作業に戻った小さな背中を追いかける。


「ちょっとだけ、私だったらミルク感が強くてもいいかな、とは思う。私よ? 私にとっては。他は知らないけど」


「ミルク感、スか?」


 背後から頭をポンポンされたアニーは振り向き見上げる。


 上手く言葉に出せないカッチャ。身振り手振りで言いたいことを伝えようとする。


「ほら、なんかあったでしょ。濃縮するやつ。凍らせて、ほら」


 我ながら端的すぎるか、と諦めかけたが、そこに。


「凍結濃縮分離法を使用したミルクですね。なるほど。それもアリかもしれません。やってみましょう」


 話に吸い寄せられるようにユリアーネが入り込む。濃縮ミルク。思い出したものがある。

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