302話
それなりにこの店で働いてみて、こういう時の店長の考えはカッチャにはわかる。
「それはそっちがラクしようとしてない?」
「仕事はどうすればラクにできるか、研鑽することだよ。そんなわけで。よろしくね」
無理やり上手く話を纏めたっぽさをダーシャは出す。ピクピクと小刻みに震えながら。本心はもちろん言われた通り。こっちのほうが自分の負担が少ないから。
少し気まずそうにしながらビロルは目を背ける。
「俺やオリバーくんはほら……カッチャがいない時にやるわ。それ」
いや、オリバーくんがやれるとは悪いが思えないけど。彼は地球最後の日でもテーブルウェア探しの旅に出るタイプだし。
しかし当の本人のオリバーはやる気が漲ってきている模様。
「なるほど。それもありですね」
自信はある。どんな人でも、素晴らしいテーブルウェアを眺めていると不思議と落ち着く。うん、間違いない。
そして一応、一番上の立場であるユリアーネも言葉を付け加える。
「当然、時給も上げさせていただきます。よろしければお願いいたします」
「……あー……」
渋い顔のカッチャ。これは引き止められてる、と思うんだけどオッケー? 嬉しいけど。嬉しいけども。いや、嬉しいんだけど。
そのリアクション訝しみながら、ユリアーネは恐る恐る。
「ダメ、ですか?」
分のいい賭け、ではあったはず。とはいえ、相手の意思を尊重したい。ダメであれば仕方ない。その人の人生までどうこうはできないのだから。
上目気味に見上げられると、これでオチない男はいないわな……とカッチャは別のことを考えつつも。
「もう、わかった。わかりました。わーかーりーまーしーたー。言っておくけど、別に今まで通りよ。特別なにかするわけでもない。今までと一緒」
一応の承諾。この子達にお願いされると断れない。断ろうと思えばできるけど、そのあとしばらくは思い出しては悩んでいそう。なら。こうでしょ。若干の不貞腐れ感を出しつつ、テーブルに頬杖。




