300話
なんだかんだで美味しそうに食べてもらえるのはビロルにも好感触。
「留学生なんだと。卒業したらここに来てくれるよう、ユリアーネちゃんが頼んだとか」
「無理だと思いますけど」
目を閉じ、ユリアーネは期待しすぎない。きっと、時代を代表するようなショコラティエールになる、そんな人だから。でも言うだけ、誘うだけはタダだから。いつかコラボでもできたら、なんてことも。
未来を見据える。明日のことも、数秒後のこともわからないけれど、数年後を考えてしまう。
朗らかな空気感。咀嚼しながら冷めた目と穏やかな心でカッチャは相槌を打つ。
「それはそれは」
楽しそうなことで。もしそうなったとして、その時に私は。きっと。きっと——。
「どうしたんスか? 悩みごとっスか?」
鼻が触れそうなほどアニーが顔を寄せる。コーヒーや紅茶の香りに混じって、黒ずんだ迷いの芳香。いつも自分達の頭を鷲掴みにして、UFOキャッチャーみたいに導いてくれる存在。そんな人の握力が弱まっている。
アニーは嗅覚で様々なものを読み取ることができる。嘘さえも。だが、その感覚を言葉で説明するのは難しい。「フワッと」「シュイーンて」という風に捉えるだけ。『なんとなく』でしかわからない。心が読めるわけではないので、悩み事がある、という程度でわかる。
ゆえにカッチャは隠しても無駄、と認識。
「そう見える? 感じて味わってんの。スリランカの風を」
最初はその性質を煩わしく思ったりしたこともあったが、今では包み隠さず話せるのはストレスにならないので、逆にありがたかったり。居心地の良さ。
「いきなり詩的な感想だね。で、あとどうするとよくなると思う? カッチャちゃん的には」
と、ダーシャ。とりあえず全員から改善案はもらえるだけもらってみる。




