293話
そうこうしているうちに二〇時をまわり、閉店の作業。まだまだ賑やかなベルリンの夜の街。そこかしこの広場ではクリスマスマーケットが開催されており、煌びやかな屋台が無数に出店されている。
ヨーロッパ各地でこのマーケットは開催しているが、ドイツは特に大規模で人気があると言っても過言ではない。特に世界遺産でもあるケルンの大聖堂周辺では『ハインツェルの冬のメルヘン』と呼ばれる、小人をテーマにしたマーケットに人がごった返す。
ベルリンも負けじと、様々な工夫を凝らしたイベントを行っている。例えば市庁舎前で開かれるマーケットでは、観覧車やスケートリンクなどが夜遅くまで人々を楽しませている。
すぐ近くで開催しているマーケット。その熱が伝わってくるほの暗い〈ヴァルト〉店内真ん中付近のソファーにカッチャは腰を下ろす。
「で? 店長、なに? 用があんなら早く言って」
帰りながらほんの少し屋台を覗いていこうかな、なんてことを考えていた。別に今日にこだわっていたわけではないが、出鼻をくじかれたことで機嫌は悪い。
その向かい。気持ちはわからないではないが、すごまれてもダーシャとしても困るわけで。
「なんでキレてるの。まぁ、それは僕からではなくて」
「大変だったんだぞ、色々と。相談とか。試食とか。何日もかけて」
そこにビロルが悪態をつきながらテーブルの横に立つ。本当は一日で決まったけども、多少話を盛っておく。なんか見栄を張りたくなった。
返すじっとりとしたカッチャの目つき。
「なにが?」
「これっスよ、これ」
話の流れを引き継ぐのは、いつの間にか店に来ていたアニー。今日は休みだったが、このために閉店時間に出勤。もちろん時給は出ない。そして「これ」とは手に持ったプレートの上に乗った、こんがり狐色に焼けたお菓子。プレート違いで二つ。それをテーブルへ。




